農場ではなく、実験室育ちの肉
培養肉は、生きた動物から採取した細胞を使用し、屠殺することなくつくられる。導入細胞には培地が与えられ、バイオリアクターの中で培養され、実験室環境のなかで、脂肪と筋肉の組織へと発達する。
実験室で食肉を育てることで、動物を屠殺する必要はなくなる。また、食肉生産に必要な土地や水、その他の資源の使用量も削減できる。適切な方法で培養すれば、二酸化炭素排出量も削減できる。さらに、水質汚染、生物多様性の喪失、森林破壊を減らすことで、環境保全効果が期待できる。
価格低下
どんな食通であっても、ハンバーガーが33万ドルもするようでは、培養肉を普段の食事に取り入れようとは思わないだろう。だが、それは2013年の話だ。今日までに、培養肉市場は大きく変化した。
ポスト教授は、「33万ドルのバーガー」発表の3年後にモサミート(Mosa Meat)を共同で設立し、現在も培養肉研究に取り組んでいる。そして彼だけではない。いまや世界で70以上の企業が、実験室での食肉生産に乗り出しているのだ。
培養肉の価格は、ハンバーガー1個あたり33万ドルから、約9.8ドルまで下がった。価格低下の要因は、生産の大規模化と、原材料価格の低下だ。とはいえ、培養肉が依然として、食料品店やレストランで買えるハンバーガーよりも「はるかに高価」であることは、ポスト教授も認める。
価格低下と参入企業の増加に加えて、実験室で生産できる培養肉の種類も増えた。今では、鶏肉、豚肉、アヒル肉、羊肉に加え、カンガルー肉や馬肉まで生産されている。
世界の食料供給に果たす役割
生産コストは急激に低下しているが、まだまだ改善の余地はある。世界中の企業や研究者が、培養肉をより安価で入手しやすいものにしようと取り組んでいるが、規模拡大の問題に直面している。
培養肉をスーパーマーケットの棚に並べるには、導入細胞や培地の低価格化と、超大型バイオリアクターが必要だ。これまでのところ、培地とバイオリアクターは高価で、世界の食肉需要を満たすのに必要な数量は存在しない。
私たちは今、安価な食料をかつてないほど必要としている。パンデミックによって世界の飢餓は拡大し、国連によれば8億1100万人が栄養不良状態にある。2020年の時点で、十分な食料の入手に困難を抱え、中程度から重度の食料不安の状態にあるとみなされた人は、合計23億人にのぼっている。
安価で手に入りやすい培養肉の実現は、世界の食料供給に役立つはずだ。