ビジネス

2022.03.19

東京の「スタートアップ・エコシステムの成長段階」は?

早稲田大学ビジネススクール(WBS)の牧 兼充 准教授


牧:どうもありがとうございます。ところで、東京を拠点に積極的に活動している投資家の多くは海外出身で、将来的には海外の移民が日本で起業することが増えるのではとおっしゃっていました。この点についてもう少しくわしく聞かせてください。

ウィックハム:ベンチャー・キャピタル業界に関しては、業界外からアウトサイダーが参入して「ディスラプト(破壊)」するのではないか、と思っています。おそらく日本ではそうなるだろうと、予測しています。

私個人としては、創業者チームの出自にダイバーシティ(多様性)があると、期待が高まります。日本のスタートアップならなおのことです。当然、日本が秘めるポテンシャルを最大限に生かしたいですよね。素晴らしい都市インフラはもちろん、日本の国内総生産(GDP)と経済規模を考えたら、これを活用しない手はありません。実際、日本のスタートアップは、日本の強みを上手に活用しているとは思います。

ただ、多くは社員全員が日本人だったりします。そうすると、そのスタートアップは生まれた段階から海外市場へ進出するために必要な「グローバルなDNA」をもつことができなくなってしまうのです。

牧:私が所属していて、フィルにも客員教授になってもらっている早稲田大学ビジネススクール(WBS)は、国内外の若きビジネス・プロフェッショナルが英語でも学んでいる数少ない教育機関の一つですが、こうしたコミュニティはまだ少ないように思えます。

海外進出を前提としたスタートアップを育成するに当たって、シリコンバレーにおける「Sand Hill Road(サンド・ヒル・ロード)」のようなベンチャー・キャピタルのコミュニティは生まれるのでしょうか。そして生まれるとすれば、それはどのような形態を取るのでしょうか。

ウィックハム:9km弱の街道のサンド・ヒル・ロードに、ある時点では世界のベンチャー・キャピタルの40%が集まっていましたからね。それでは一つ、例を挙げましょう。私たちが出資しているゲーム制作会社「Playco(プレイコー)」は渋谷区に拠点を置いていますが、長谷部健区長は革新的な区長で、渋谷区で多文化共生を推進し、イノベーションにも理解があるようです。

起業家やスタートアップで働く社員にとって生活しやすい環境を整えていますが、これは起業家の育成にとって大切です。起業家とは良くも悪くも、自己実現したい人たちなのです。彼らは魅力的な街にいることが多いですが、それは自分たちが働きたい場所を「選んでいる」からです。

ベルリンもそうですし、シリコンバレーがあるカリフォルニア州もそうです。そして、東京は現代において最も魅力的な街の一つです。日本の大企業がスタートアップと実験的に協業するようになれば、今後、いっそう多くの人を国内外からひきつけるでしょう。

今から20年前、シンガポール政府の関係者に、「どの大手銀行ならソフトウェアを買ってくれそうか」と尋ねたところ、「スタートアップからはどこも買わない」という答えが返ってきました。それなら、セールスに行く意味はないですよね。その点、シリコンバレーはテクノロジー関連のサービスや製品の潜在顧客に地理的にも、感覚的にも近いのが大きな利点になっています。

フィンテックの起業家が(サンフランシスコに本社を置く)米銀行大手ウェルズ・ファーゴに製品を売り込みに行けば、買い手であるウェルズ・ファーゴのテクノロジー部門にはスタートアップで働いた経験をもつ社員がいる可能性は高いです。そういった社員ならばテクノロジーに対する知識や理解力は高く、スタートアップの製品が抱えるリスクに対しても寛容です。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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