ビジネス

2022.03.19

東京の「スタートアップ・エコシステムの成長段階」は?

早稲田大学ビジネススクール(WBS)の牧 兼充 准教授


松田:2019年に東京で、国内外の起業家や投資家300人が集まった「カウフマン・サミット」に先立って行われた金融庁と経済産業省の会合でのことです。最初の経済産業省の会合では、日本のスタートアップ・エコシステムが世界標準の商慣行に倣うことの重要性と、起業家・投資家間の信頼関係を築くことの大切さについて訴えました。

正直、経済産業省の反応は少し弱いもので、「イノベーションには国ごとのやり方があり、グローバル・スタンダードはないのではないか?」というものでした。ところが金融庁でほぼ同じ話をしたところ、彼らからは「イノベーションやベンチャー・キャピタルに関するグローバル・スタンダードを日本に築く必要がある」という、危機感がありありと感じられたのです。この危機感の違いこそが、現実なのかもしれません。

牧:シリコンバレーをはじめ、ベンチャー・キャピタル業界は、しばしば“排他的なネットワーク”と表現されてきました。それが近年、グローバル化に伴ってスタートアップ・エコシステムが成長し、外部の機関投資家まで参入するようになっています。そして一般的に、そういった投資家は既存のベンチャー・キャピタルと提携して出資するようになり、閉鎖的だったネットワークが徐々に外部に開かれているように見えます。

しかし日本は、まだそのようなステージには入っていないということですね。

ウィックハム:私が知る限り、東京ではまだそのような具体的な動きは見ていません。でも一部の有能の人たちがエンジェル投資やアーリーステージへの投資をするようになっています。その多くは、海外の投資家と日本人の投資家のコンビです。日本のような特殊な市場で投資するには、打ってつけの強力な組み合わせですね。

しかし、世界のどの市場でも最も重要なのは“ホームラン”を打つことです。(前出の)クリアンダムの創業者たちの話によると、(彼らが出資した音楽配信企業の)「Spotify(スポティファイ)」が米ニューヨーク証券取引所に上場した後、地元スウェーデンの起業家たちの考え方に大きな変化が生まれたそうです。

自分たちにだって時価総額300億ドル規模の会社を作れるかもしれない、と。人間とはそういう生き物なのです。その後、奇しくも同じスウェーデン発の金融スタートアップ「Klarna(クラーナ)」が310億ドルの評価額を付けています。

こうしたことが起きたとき、日本のスタートアップ・エコシステムも大きく変わるでしょう。例えば、セコイア・キャピタルのような大手ベンチャー・キャピタルから50億ドルの評価額がついて大型出資を受け、米NASDAQ(ナスダック)市場で上場すれば、「日本にも有望なスタートアップがあるのか」と、世界的に見る目が変わります。起業家のモチベーションもますます高まるでしょう。

こうした有望スタートアップは日本でも着実に育っているのですが、起業家たちが自信をもち、いっそう高い野心を抱くようになります。そして、より多くの投資家が日本市場を意識するようになり、実際に来日してイベントにも参加するようになります。

そこで成功する起業家の特徴や方法論などを紹介すると、それが起業家間で広がり、より良い商慣行についての議論、より良いベンチャー・キャピタルの紹介などにつながり、スタートアップ・エコシステム全体が進化するわけです。牧さんが活動しているような、こういった知見をアカデミアで体系づけ、より多くの人で共有できるようにするのも大切なことです。

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スウェーデンの起業シーンを勇気づけた同国発の音楽配信サービス「スポティファイ」 Getty Images
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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