ビジネス

2022.03.19

東京の「スタートアップ・エコシステムの成長段階」は?

早稲田大学ビジネススクール(WBS)の牧 兼充 准教授


スタートアップ・エコシステムは成長していくうちに、外部から何かしらの変化が訪れます。課題の多くは自浄されることはなく、この外部の力によって解決されることが多いのです。ベルリンの場合、ポーランド移民の創業者たちが立ち上げた「Point Nine Capital(ポイント・ナイン・キャピタル)」が、スタートアップ・エコシステムの成長に大きく寄与しています。

日本にも、優れたスタートアップ・エコシステムが育つだけの肥沃な土壌があります。教育に熱心な社会で、人々に創造力があり、社会インフラも洗練されています。ただ、リスクを取ることに対して総じて慎重です。起業家の数も多いとはいえません。それは、起業家を育てるように社会が設計されていないからです。

これから日本で起こり得ることの一つに、海外からの移民が日本人と一緒にスタートアップを立ち上げるというものがあります。そうすると、「Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)」や「Benchmark Capital(ベンチマーク・キャピタル)」といった大手ベンチャー・キャピタルが日本市場にも参入して、有望なスタートアップに出資するようになるでしょう。

やがて、グローバルなベンチャー・キャピタルが、日本の国内マーケットでの成功に留まらない、グローバル規模の成功を見据えたアーリーステージ・ファンドを組成するはずです。実際、これは私が見てきた世界各国の都市で起きています。ブラジルのサンパウロやリオ・デ・ジャネイロ、チリのサンティアゴ、スウェーデンのストックホルム、そして英国のロンドン。自然な成長段階の一つなので、必ず起きる現象なのです。

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独ベルリンからはフィンテック企業「N26」などのグローバル企業も生まれている Getty Images

牧:日本もそういった成長段階にあるということでしょうか。

ウィックハム:おそらく、日本もその段階にあると思います。日本は途上国ではなく、自由主義経済圏の中では世界で2番目の規模を誇る市場です。それに加えて、多くの独特の特徴があります。そのポテンシャルを考えたら、覚醒したときの衝撃はかなりのものになるはずです。

松田弘貴(以下、松田):起業家やスタートアップに関していえば、日本でも世界各国から人が集まって協業するようになっています。ただ、投資家はまだ非常にドメスティックのように思えます。例えば製薬業界や金融業界では、日米企業の間でコラボレーションが生まれていますが、他の業界ではまだ溝があるようです。

ウィックハム:どの国も、地元の人だけでは、海外投資家が出資しやすい環境を整えるのは難しいものです。

だからこそ、スウェーデンの「Creandum(クリアンダム)」や、英国とイスラエルで活動している「Angular Ventures(アンギュラー・ベンチャーズ)」のような優れたベンチャー・キャピタルは、Limited Partner(以下LP)向けのプレゼンテーション資料に、成功指標として「シリーズBに共同出資したベンチャー・キャピタル」として、セコイア・キャピタルやアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)などの有力なベンチャー・キャピタルの名前を列記しています。

優れたスタートアップだから、海外の有名ベンチャー・キャピタルも投資を決めた、と説明できるからです。こうした動きは、まだ日本では見られません。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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