ビジネス

2022.03.15 17:00

投資家と起業家の「理想的な関係」とは?

早稲田大学ビジネススクール(WBS)の牧 兼充 准教授


なぜなら2010年より前は、シリコンバレーのビジネスモデルの潮流はテクノロジーそのものでしたが、2010年以降は人工知能(AI)が基盤技術として、AIと他の産業の連携が盛んになっていったからです。それまでは、日本の大企業は、技術開発を行う側の競合として品質の面でも競り負けていましたが、これを機に、日本の企業がスタートアップと組むことができるようになったように思います。
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「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」を提供するアマゾン・ドット・コムの本社 Courtesy of Amazon

ウィックハム:この議論には、いくつか興味深い点がありますね。まず、ベンチャー・キャピタルの進化について考えてみましょう。一般的に、ベンチャー・キャピタルにとってのターニング・ポイントになったと言われているのが、1957年の米投資会社アメリカン・リサーチ&ディベロップメント(ARD)による米国のコンピュータ・ハードウェア企業であるデジタル・エクイップメント・コーポレーション(DEC)への出資です。

これが、ベンチャー・キャピタル界にとって初めての“ホームラン”でした。ただ、ここで考えてみたいことがあります。ARDは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授でもあったジョルジュ・ドリオット氏が46年にボストンで立ち上げました。
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同社は今では、「ベンチャー・キャピタルの原型」と考えられています。現在のベンチャー・キャピタルは、中核であるテクノロジー投資そのものから、その周辺部に派生するように進化してきたということです。

ここで、DECの共同創業者ケン・オルセンについても考えてみましょう。オルセンは、「メインフレームのコンピュータだけではなく、『ミニ・コンピュータ』も必要だ」と語り、その市場を見事な形で創出しました。

その彼が、「個人が自宅にコンピュータをもつ理由はない」という有名なセリフも残したのは興味深いです。ところが皮肉にも、パーソナル・コンピュータ(PC)の波が訪れます。

まず、サン・マイクロシステムズやアポロといったワークステーションが生まれ、そこからコミュニケーションやストレージに関する課題が出てくると、それを解決するシステムへと派生し、PCが普及するようになります。そして、PCがやがてiPhoneのようなモバイル端末へと進化したのです。

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シリコンバレーの成長を牽引したDECの共同創業者ケン・オルセン(右端)Getty Images

AWSが極めて重要であることに異論はありませんが、むしろ、これは論理的な進化の結果でもあるのです。高額なコンピューティングモデルから、PCやモバイル端末のように汎用性が高い製品へと開発が進んだように、テクノロジーはB2Bから消費者へと広がってきたのです。銀行に行けばわかりますが、メインフレームやミニ・コンピュータは今日でも存在します。それでも、こうしたテクノロジーは内部から外に広がっていくのです。

ベンチャー・キャピタルも色々な面白いパターンがあります。「数撃ちゃ当たる戦法のVC」の数が増えた時期があったかどうかは定かではありません。いつだって、戦略的に投資する人もいれば、数打てば当たる的な人もいるでしょう。ただ、PC業界が誕生したことで、ベンチャー・キャピタルも爆発的に増えたのは確かです。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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