だからこそ、Limited Partner (以下LP)と正面から向き合うという基本に立ち返ることにしました。LP各社の社員に参加してもらうインターンシップ・プログラムを始めたのです。当時はそのようなものは皆無でした。それが、起業家に対する他のベンチャー・キャピタルとの差別化要因になりました。
ジャフコの後、私はドイツのファミリー・ビジネスでファンドを組成したのですが、あるブロードバンドチップ会社への支援を巡って社内で議論が起きました。つまり、「CEOをサポートしたところで、投資ラウンドに入れてもらえなければタダ働きになる」という意見が出たのです。
ただ私に言わせれば、「CEOの力になれることを証明できなければ、投資さえさせてもらえない」。失うものは何もなかったわけです。結果的にCEOをサポートすることで、投資することができました。それも有利な条件で、です。その会社は半年後、上場しています。
そこで私は、投資家は起業家を支援すべき、というアイデアを報告書にまとめました。中村幸一郎がベンチャー・キャピタル創業の話を持ちかけてきたとき、この報告書に触れ、会社のありかたを提案したのです。
まず、スタートアップの力になれるようなLPを集めたうえで、私たちがスタートアップの事業展開をデュー・デリジェンス(適正評価)します。その段階で、経営陣や顧客を見れば、だいたい有望な会社かどうか分かります。そして日本市場でも結果を出せるようなら、グローバル市場でも有望な会社かどうか測ることができます。Sozo Venturesは、そうした設計のもとで生まれたのです。
早稲田大学ビジネススクールの教壇に立つSozo Venturesの共同創業者フィル・ウィックハム Courtesy of the Author
牧:起業家やLPを含めて、すべてのプレイヤーが満足できるようなインセンティブ設計をし、新しいシステムを構築した印象があります。
ウィックハム:私は日本でエドテックの起業家だったこともあり、カウフマン・フェローシップ・プログラムに参加する前から、多くのベンチャー・キャピタルを育成するカウフマン財団の戦略と教育理論に関心を持っていました。
それに私はエンジニアであるため、「システム」というものに興味がありました。そして「社会システム」は、“人の気持ち”を抜きには語れません。一人の人間として相手に向き合う覚悟がなければ、信頼関係が失われ、コミュニケーションの齟齬が生まれてしまうからです。それに、LPや起業家、投資家も一緒に何かに取り組むことが本当は好きなのです。
オープンに話し合えば、お互いに無用な遠慮がなくなり、信頼と熱意は高まるものです。
牧:ベンチャー・キャピタルに関する論文が多数ありますが、そのうちの一つが、ベンチャー・キャピタルのビジネス・モデルを画期的に変えたのが「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」だと指摘しています。AWSの登場により、スタートアップ・ビジネスを立ち上げる初期コストが劇的に下がったからです。
これにより、いわゆる「リーン・スタートアップ」型の起業が可能なりました。そして、ベンチャー・キャピタルもさまざまなスタートアップに幅広く投資する「Spray and Pray(スプレー・アンド・プレイ;数撃ちゃ当たる戦法のVC)」式に変わっていった、と。加えて、Sozo Venturesのビジネスモデルが確立されたのは、10年以降だと思います。