これが実に、20年ほど前にタイムスリップしたかのような会議だった。会議のスタイルも、そこにあるテクノロジーも遅れていた。
最も驚いたのが、女性社員が自ら入れたお茶を運んできたこと。そして、30分ぐらいすると、お茶を差し替えに来る。もちろん会議の参加者は男性のみ。ボーイズクラブである。
こうした「女性だから○○するべき」という固定概念は、一部のビジネスの現場で、まだ残っているのだろう。筆者自身もすでに54歳で、若者からは「老害」と思われても仕方ない年齢だ。自分自身が持つ固定概念を変えることは難しいかもしれない。
一方で、そんな「古い考え」を壊しながら前進してきた企業もある。ベビーシッター事業大手・ポピンズホールディングス。同社は2020年末、日本初の「SDGs-IPO」として東証一部に上場した。
(前列左から)轟麻衣子社長、中村紀子会長
「SDGs-IPO」とは、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った事業を資金使途とする事例である。ポピンズの中心事業は、SDGsのゴールの4番「質の高い教育をみんなに」5番「ジェンダー平等を実現しよう」8番「働きがいも経済成長も」の3項目に該当している。
早速、社長の轟麻衣子氏に話を伺った。
ベビーシッターを、身近な存在に変える
ポピンズは1987年に、轟社長の母である中村紀子氏(現会長)が創業した。主な事業である「ナニーサービス」は、首都圏エリアでは1時間3080円(スタンダードコース、別途入会金・年会費必要)で提供。多くの働く親の味方となっている。
創業は、轟社長が11歳のころ。その背景には、テレビ朝日を経てフリーのアナウンサーとして活躍した母・中村氏の経験がある。轟社長は当時の母を振り返り、その想いを代弁する。
「日本に“ベビーシッター”という制度がほぼ存在しない時代でした。私は、幼いころは、家政婦紹介所から派遣されてきた方や近所の方に世話をしてもらっていました。母は私を安心して預けられるシッターさんになかなか出会えなかった辛さから、起業に至ったそうです。同じような想いをしながら胸を痛めつつ働く母親がいるはずだと思ったのでしょう」
筆者にも幼いころ、ベビーシッターとお手伝いさんがいたらしい。父の仕事の関係で、家族でバングラデシュに滞在していたころの話だ。残念ながら写真で振り返るのみで記憶はなく、筆者にとってベビーシッターは映画の中で見る程度の、縁遠い存在である。
ポピンズは、そんな「縁遠い存在」であるベビーシッターを、身近な存在に変えていくことに挑戦してきた。順調に売上を伸ばして成長し、34年の時を経て、ついに上場することになったのである。