情報収集とコミュニケーションは、視覚と聴覚だけでは無理。五感の社員食堂


さらにミャンマー報道にも考えさせられる。同国については、軍事政権の専横と人権無視が連日伝えられている。もちろん大問題であり、平和的で人権を重視した解決が不可欠であることは言うまでもない。

だが、英国による帝国主義的抑圧の植民の歴史をもつ、130を超える多民族国家という難しさは、先進国にいて先進国目線で考えていては間違える。

何よりも日本の国益を考えたとき、ミャンマーをどう位置付けてどう向き合っていくのか、は単純ではない。人権無視の国家など制裁だ、と欧米に右へ倣えでは、あまりに稚拙である。

コロナ前まで、この目でミャンマーにかかわっていた私は、昨今の報道をうのみにはできない。『ビルマの竪琴』はいまなお確かな心象風景だと思う。

緊急事態宣言が解かれた東京都心の真新しいオフィスビルである。入居したITの塊のような会社の社長が、建材の匂いが漂うフロアを案内してくれた。最近では珍しく社員食堂がある。

私が「在宅リモート勤務が多いいま時、社員食堂なんかいるのかい?」と聞くと、社長は待ってましたとばかりに答えた。

「正確な情報収集とコミュニケーションは、視覚と聴覚だけでは無理。リモートはこの二つですら間接的です。直接的な五感を総動員してこそ意思疎通が成り立つんです」

社員たちが、食堂で席を共にし、休憩時間にコーヒー片手に語り合うことで、IT社会が実装されるのだ、と強調する。

報道に対しても同じことが言える。間接かつ一方通行ではダメだ。直接の視覚、聴覚と触覚、嗅覚、そして何よりも「空気」を感じて、初めて正しい判断に近づけるのである。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボード、嵯峨美術大学客員教授などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.089 2022年1月号(2021/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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