最高品質ウールxアート デザインの秘密
では、アートシャツの洗練されたデザインはどのように生み出されたのか。実は今回のコラボが決まった2021年6月には、すでに佐々木はアートシャツのイメージを思い描いていた。
「僕の場合、あれこれデザインを想像する時間が長くて、絵を描く時にはもうほとんど形が決まっているんです。今日ではありえないレベルの高品質なウールを使うので、今まで見たことのないものを作りたいという意識がありました」
実際、三星毛糸の本社を訪れた際に、ずらりと並べられたウールの生地見本から候補をすぐに選び出す佐々木の姿が印象的だった。「非常に毛羽立ちが少なく、こだわりのあるSUPER140sを見た瞬間、これしかないと思いました。しなやかさが際立っていて、洗濯が可能だという点も魅力でした」
本生産は、佐々木から衣服製造や販売業務のクラウドサービス「sitateru CLOUD」を展開する「シタテル」に依頼。ヘラルボニーと縫製工場や検品所との橋渡しだけでなく、シャツ制作が得意なパターンナーの中村忠義を繋いだ。
中村はオーダーメイドのドレスシャツ専門のパターンナーからキャリアを積み、独立後はその経験をベースに、既製服だけでなく舞台衣装やスポーツ選手などの多彩な依頼を受けている。今回ウールシャツの依頼を受け、中村は「趣味の登山で初めてウール100%の靴下を使用した時にその乾きやすさと防臭効果、保温性に感動したのを覚えています。ウールシャツの依頼は珍しいですが、地肌に触れるシャツでも同様な効果があり、意外と理にかなっていると思います」と語った。
アートの位置を調整する佐々木(手前)とパターンナーの中村(中)=Forbes JAPAN撮影
本生産前のトワル(服の原型)作成では、ヘラルボニー代表の松田をモデルに、パターンナーの中村と共に仮縫いをしながら、デザインを調整した。佐々木は「いつもヘラルボニーのアートがよく見えるように意識しています。今回は、ジャケットの襟の中に美しくアートが収まるように縦のラインを配置しました」と明かす。
中村も着心地やシルエット、サイズ感だけでなく、やはりアートの見え方にこだわった。「特に作家さんの素敵な柄がどれくらいの幅で見えたらより素敵か、ということを意識しました」
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完成品を手に取り、佐々木は「後にも先にもないアイテムが出来上がりました。三星毛糸の最高のウールで、機能的にもデザイン的にも非常に良いものに仕上がったんじゃないかなと思います」と自信を覗かせた。
三星毛糸の岩田は「もし他のブランドとコラボしたら、生地の特性からものすごくカチッとした印象に仕上がったと思います。ですが、ヘラルボニーのデザインが入ったことでカジュアルにも着られて、そのバランス感が絶妙だと思います」と評価する。森谷は「スーツのように着られる綺麗めなシャツなのに遊び心がある。さらにシワになりにくく丈夫な生地で着やすい。末長く着ていただければ」と呼びかける。
出来上がった1枚のウールシャツを巡る物語を辿ると、作り手の熱い想いと日本が誇る技術力が詰まっていた。その技術がアートやデザインの力とうまく融合し、背景にあるストーリーが伝わった時に、大きな共感を与えるのだろう。ヘラルボニーと三星毛糸の協業に並走しながら、そう感じた。
2月25日発売の「Forbes JAPAN」スモール・ジャイアンツ特集では、今回のコラボについて、ヘラルボニー代表の松田、取締役CCOの佐々木、三星毛糸社長の岩田の特別対談を掲載している。