LVMHも指名する「日本の技術」をリレーで繋げ!2022年の「奇跡のウールシャツ」

Forbes JAPAN x ヘラルボニー x 三星毛糸のコラボで生まれたウールシャツ


ヘラルボニー 佐々木早苗
ヘラルボニー参画のアーティスト佐々木早苗(るんびにい美術館在籍)=提供写真

コラボウェアは「スーパーメリノアートシャツ」と名付けられているように、前身頃にある黒い丸のアートが引き立つデザインだ。ヘラルボニーの商品には障害のある作家が描くアートが施されているが、今回は作家の佐々木早苗の作品が使われている。三星毛糸のテキスタイルデザイナー森谷佳苗にとって、驚いたことがある。

「これまでウールにプリントをするという前提がなかったんです。プリントがうまくいくか、堅牢度が満たされるのか正直心配でしたが、うまく仕上がっていてびっくりしました」(森谷)

異例のウールプリントに挑む 京都の染色技術


野崎染色取締役企画部長の田中左智枝
野崎染色取締役企画部長 田中左智枝=提供写真

異例のウールプリントを実現させたのが、京都府亀岡市の染色会社「野崎染色」の技術力だ。アトツギのひとり、取締役企画部長の田中左智枝によると、ウールの生地にはインクが乗りにくく綺麗に仕上がるまで5年ほど試行錯誤したという。

プリント前後も含めて社内一貫加工の全工程を見直した。まず、インクジェットプリンターのヘッドが当たらないように、前処理の段階でウールの毛をできるだけ寝かせるようにした。プリントの蒸し工程では、染色しやすい適度な温度と時間を見つけ出したのだ。その中でも三星毛糸の生地は「高品質のウールでプリントがしやすかった」と振り返る。

野崎染色
染色の蒸し工程も仕上がりを左右する=提供写真

デザイナーの佐々木も「ウールの染色は難しく、色合いがイマイチになってしまいがち。しっかり仕上げられるのは、全国でも2、3社しかないと思います」と語る。野崎染色も、メゾンブランドから直接指名される日本の会社のひとつだ。だが、やはり服の完成形まで知らされることは少ないという。

野崎染色の田中は「今回20~40代の若い社員がチームで染色に取り組みました。私たちのような工場にまで気を配って制作を進めていただき、とてもありがたかったです」と語る。今回のコラボのデザインを見て「福祉から生み出されたものでデザイン性が高いのは素晴らしい。アートが際立っているけれど、しつこすぎないのがすごいと思います」と語った。

野崎染色
ヘラルボニーのアートをウールにプリントする様子=提供写真

チクチクしない「刺繍ワッペン」が生まれた意外な背景


アートシャツの胸元を飾るのは、ヘラルボニーのロゴだ。三星毛糸の岩田の紹介で、尾州ウール産地で刺繍加工を手がける愛知県一宮市のラカムの「刺繍ワッペン」が使われている。シャツ地にそのまま刺繍をすると裏側に糸が出るが、ワッペンの土台に刺繍が施され、工業用プレス機で熱圧着し、ラカム独自の技術でチクチク感を防ぐ。

佐々木は「デザイン上は非常に細やかな点ですが、肌にやさしく、ロゴが高級感のある仕上がりになっているのはラカムさんの技術力です」と言う。

ヘラルボニーx三星毛糸 アートシャツ
ウールシャツに施されたアートプリント ヘラルボニーロゴの刺繍ワッペンも繊細な技術だ

ラカム代表取締役の浅見孝重は、刺繍ワッペンが生まれた意外な背景を口にした。

「1990年代、会社の成長期が百貨店の子ども服の全盛期と重なりました。ベビー服の場合、刺繍の裏地の糸が出ないように薄い布や裏地を全体的につけますが、夏物でも子どもに優しい刺繍ができないかという思いから、25年ほど前に刺繍ワッペンを開発しました」

今も主な取引先として子ども服のファミリアが挙がるが、浅見は「お客さんに育ててもらいながら品質の高さを身につけた」と振り返る。

ラカム代表取締役 浅見孝重
ラカム代表取締役 浅見孝重=提供写真

ヘラルボニーを初めて知った浅見は「障害のある方って独特な才能をお持ちなんですよ。その才能は理解しているつもりでしたが、センスの良い形でビジネスに繋げられているものは初めて見ました」と驚く。
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文=督あかり 写真=佐々木康

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