ウェルビーイングにはデータが最重要
植野:10年後はどんな世界になると思いますか?
北川:メタバースのような世界は絶対来ているでしょう。きっとデジタル世界における自分と等身大の存在をみんながもっている状況になります。
AIの世界で僕が期待したいのは、もう少しちゃんとパーソナライズができること。いまは「なんちゃって」なので。サステナビリティの次は、間違いなくウェルビーイングが大事にされるはずです。
批判ではなく、単純にいまのサービスのあり方は全部キャピタリズムに向かっている。カネを稼ぐのが至上命題です。例えば、Facebookのビジョンは「人をつなげること」で、そのことが「価値」じゃないですか。それなのにマネタイズが広告というのは、すごく歪な状態だと思います。これから立ち上がるスタートアップの起業家は、ビジョンとマネタイズを合わせることにもっと躍起になるはずです。
植野:そのときにデータはどう生かされますか?
北川:データやAIは「誰が、何を、どんな価値だと思うか」ということと同時に「何が、どれくらいお金になるか」を明確に指し示せます。
ただし、いまは「人々が本当に価値だと思っているわけではないのに、なぜかお金になる社会構造上の価値」と「本来の価値」との差分があるから、マネタイズとビジョンがズレるんです。これがズレないように、定量的に社会が向かうべき方向を指し示してくれるのが、ウェルビーイングの計測だと考えています。あと10年ほどで、ポストSDGsとしてウェルビーイングが社会ビジョンの指標になっていることを願っています。
植野:認識までに10年かかると。
北川:実装は20〜30年かかると思いますよ。だからデータって僕的に面白いんです。
植野:人間の理解を進めながら、よい未来を信じている。重要なのは「見ている先」ですね。やっぱりビジョナリーであることが大切なんだ。
北川:心の底から「この世界をよくできる」と信じていないと、人は付いてきません。特にいまの時代はすぐにバレちゃうと思うんですよ。「あっ、この人は信じてないぞ」って。
「CxO」のビジョン、三カ条(北川拓也)
一、自己の「感情」を知り、それを最大限に生かす。
二、仕事は「いつでもCEOになれる覚悟で」取り組む。
三、この世界がよくなると「心の底から」信じる。
きたがわ・たくや◎1985年生まれ。灘高校卒業後、米ハーバード大学に進学し、数学と物理学を専攻。2012年に楽天のインターン生として入社。13年にハーバード大学院物理学科博士課程修了後、当時最年少の27歳で楽天の執行役員となる。17年に設立された楽天データマーケティングでは取締役を兼任。19年より現職。グループ全体のデータ戦略と実行を担い、インドやアメリカを含む海外拠点の組織も統括する。
うえの・だいすけ◎DX JAPAN代表。早稲田大学政治経済学部卒業、MBA取得、商学研究科博士後期課程単位満了退学。三菱商事入社、ローソンへ約4年間出向、PontaカードなどのDXを推進。ボストンコンサルティンググループを経て、ファミリーマートへ。ファミペイの垂直立ち上げなどDXを統括・指揮。2021年よりANDPAD上級執行役員CMO。