ビジネス

2022.02.20 17:00

研究者からビジネスの世界へ。異例の転身を遂げた才能が描くデータ活用の未来


自分の感情を生かせる名経営者


植野:ところで、北川さんは大きな変遷を何度も重ねていますよね。さかのぼって原点を伺えますか?

北川:小学3年生で体験した阪神・淡路大震災です。当時は兵庫の西宮に住んでいて、学校に通えない時期が1カ月続き、名古屋に疎開もしました。戻ってきて親が家を新たに買ったので転校したんです。震災の前まではサッカークラブのキャプテンとして楽しくやっていたのに、環境が一変したんですよ。僕の原点は、状況や立場が変わりイチから出発しなければいけなかった、この経験です。

植野:友達も全部変わってしまった。

北川:シリコンバレーのファウンダーにもよくあるストーリーですが、転校経験が多いとイチからスタートすることに迷いがないそうです。僕は東大へ行かずハーバードへ行ったり、そこで理論物理学の研究者としてうまくいっていたのにビジネスの世界にいきなり飛び込んだりしました。イチからスタートすることが怖くはなくて、むしろいまは好きなんです。

ゼロから始めるとき楽しいのは「自分が社会に対して出す価値は、自分でつくるしかない」とあらためて考えるチャンスだから。自分は何者でもないし、これから生むものはプラスでしかない。「人生におけるまっさらなキャンバス」を前にするイメージです。

植野:当時は「灘高の生徒が東大へ行かずハーバード、海外に行ったぞ」とニュースになりましたね。

北川:長いこと日本は世界の中心じゃないから、日本の大学へ行く意味がないなと。英語には苦労しましたが、自分の知らない面白さを常に学べたのでいい環境でした。ハーバードの人たちは知性のクオリティも違うし、深さも違う。「何が世の中で本質的に価値があることか?」を常に議論している人たちがたくさんいます。

植野:北川さんは「知性」をどうとらえますか?

北川:自分が興奮できそうな情報が入ってきたとき、直感的にそれを感じられる力。つまりは「感受性」のことです。感受性を高めるには、自分にとってその事象がどういうことか、常にオーナーシップをもってとらえることが大事です。

要は、自分はどう思うかという主観的な意見をもつことですね。心の底から面白いと思えることを見つけるのが知性。学者の世界はそうです。またプロになればなるほど、少しの違いにも自分が興奮できるポイントが増えるはずです。

植野:卒業後はすぐ就職しようと。

北川:いいえ。物理学者になる気でしたし、いまも自分を物理学者だと思っています。常に変わっていない一生やりたいことは「人間の理解」です。この時代で人間を理解する科学をやるなら、脳科学か生物学かビッグデータのどれかだと思いました。

アメリカのいいところはルームメイト制で、一緒に住んでいる人と同じ学問をしているとは限らず、彼らがFacebookなどのシリコンバレーの成長企業に行っていて、ビジネスの世界が遠くなかったんです。当時はFacebookとコンピュータサイエンスの研究者が一緒に研究する例が結構ありました。もともとネットワーク理論は物理学者のアイデアなので、僕もいろいろ考えていました。
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文=神吉弘邦 写真=有高唯之

この記事は 「Forbes JAPAN No.088 2021年12月号(2021/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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