植野:楽天を選んだ理由は?
北川:実は、当時上場前のLinkedInからもオファーをもらっていたんですよね。スタンフォードの先生に呼んでいただいて講義へ行くついでに、知り合いに紹介してもらいデータサイエンスのトップの人に会いに行ったんです。雑談したらその場でオファーをくれて、すごいスピード感だなと感動しました。
植野:LinkedInで人間理解をするぞと。
北川:同じような時期、ハーバード・ビジネス・スクールの理事をしていた三木谷さんがボストンに来ていて、会う機会があったんです。そのときに「これからビッグデータで人間理解はこのように進むはず」という仮説をピッチしたんですね。そうしたら「とりあえず1カ月、うちを見にきなよ」と呼んでもらいました。社長に招かれるほうが面白いし、日本も久しぶりで楽しそうで、理論物理はどこでもできるから、と軽い気もちで入っていまに至ります(笑)。
植野:世界の中心でない日本に戻って、しかも「物理学とは別世界のEコマースサイトに行くなんて」と周りは止めませんでしたか。
北川:それを気にしないのがゼロイチの癖で(笑)。自分の好奇心がドリブンなので、理屈で動かないんです。この機会ぐらいしかビジネスを理解するタイミングはないんじゃないと思ったんですよね。
植野:経営が面白くなり、離れられなくなった。
北川:人間を理解したいので、組織の運営も興味深かったです。最初は自分の部署を数人で始めて毎年倍にしていき、いま1000人を超えました。
植野:完全にベンチャーですね。
北川:僕が入ったとき、すでに楽天は大きな企業でしたが、組織や文化、ビジョンのつくり方などをイチから立ち上げる経験を積ませてもらえました。もちろん、お金に関しては大企業の中なので起業するよりはるかに楽だったかと思いますが、すべてのステージを経験できたのは本当に貴重でした。
植野:ゼロイチの連続だから飽きることもなく。
北川:人は「自分が最も興奮すること」を「いちばん興奮しているタイミング」でやると最大の力が出ます。興奮ピークを常に高くすることが大事です。僕たちと三木谷浩史、孫 正義さんや柳井 正さんとの違いは基本的に何もありません。何が違う結果を産むのか。それはエモーションです。感情をどうコントロールするかを意識する時点でダメで、彼らは自分の感情を「生かして」経営している。
植野:ドリュー・ヒューストン(Dropbox共同設立者兼CEO)が「無心でテニスボールを追う犬になれ」と言いましたね。
北川:でも、ボールの向かう先を自分で描かないとダメです。たくさんやれることがあるなかで面白いことを見つけ出し、それに対して最大限に興奮できるようにするのは簡単じゃない。いかに自分の感情をそこへもっていくか。組織論において自分のドライブのかけ方がいちばん面白い。逆にマネジメントで失敗するのは、自分の感情に負けるときです。