家族でただ1人の健聴者 主人公が悩む音楽への夢 「コーダ あいのうた」

2022年1月21日(金)より全国公開 /(c)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

2022年1月21日(金)より全国公開 /(c)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

「コーダ(coda)」は、音楽用語では「終結部」を意味する。しかし、大文字で「CODA」と表現した場合は、「Children of Deaf Adults」、つまり“聴覚障がいの親を持つ健聴者の子ども”ということになる。

映画「コーダ あいのうた」の主人公は、このCODAにあたる。両親と兄との4人家族のなかで、1人だけ耳が聞こえる。そのため、ただ1人言葉を話すことのできるこの主人公が、日常の暮らしのなかで、家族の手話を「通訳」する役割を担うことになる。

この作品は、ストーリーに驚くようなサプライズがあるわけでもなく、胸のすくようなアクションがあるわけでもない。それでも巧みに考えつくされた映像と演技によって、いたく心が揺さぶられるシーンがいくつも登場する。

家族の「通訳」を担う主人公


現時点(1月24日)で、アカデミー賞作品賞へのノミネートも有力視されている「コーダ あいのうた」だが、インディペンデント映画を対象とするサンダンス映画祭では、グランプリと観客賞を同時受賞。さらに同映画祭史上では最高額となる2500万ドル(約26億円)で世界配給権が落札されるという「栄誉」にも輝いた。

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前回のサンダンス映画祭で同じくグランプリと観客賞を受賞した「ミナリ」(リー・アイザック・チョン監督)が、アカデミー賞の作品賞と監督賞にノミネートされたことからも、「コーダ あいのうた」が両賞の候補として期待されるのは無理もないことと言える。

実はこの作品は、2014年にフランスで製作された「エール!」(エリック・ラルティゴ監督)という映画のリメイクだ。主人公一家の家業や家族構成などに若干の相違はあるものの、主人公が家族との間で自分の将来進むべき道について悩むという物語の大枠は同じと言ってもよい。

「エール!」はパリに近いフランスの田舎町が舞台だが、「コーダ あいのうた」は、監督と脚本を担当したシアン・へダーが訪れたことのあるアメリカ東海岸マサチューセッツ州の小さな港町に置き換わっている。家業もチーズ農家から漁師へと改変されている。

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(c)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)は早朝から船に乗り込み、父フランク(トロイ・コッツァー)と兄レオ(ダニエル・デュラント)とともに漁を手伝っている。港に戻ると、彼女が「通訳」となり、獲れた魚を漁業組合の人間に渡す。いわば一家にとって、ルビーはなくてはならない存在なのだ。

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(c)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

漁から戻ると、ルビーは自転車を駆って学校へと向かう。新学期が始まり、彼女は密かに心を寄せていたマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と同じ合唱部への入部を決める。船の上では1人で高らかに歌っていたルビーだったが、彼女の才能を見抜いた顧問の音楽教師にボストンのバークレー音楽大学への進学を勧められ、そのための特別レッスンが始まる。
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文=稲垣伸寿

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