米医療ベンチャー、セラノスの創業者エリザベス・ホームズは3日、同社の開発した血液検査機器をめぐり投資家や医師、患者をだましたとして、有罪評決を言い渡された。4か月間にわたって行われた裁判や、ジョン・キャリールー著『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』の中では、セラノス社内に心理的安全性がほとんどなかったことが明らかになっている。
もしセラノスに、心理的安全性を育てる社内文化があったなら、事件は防げただろうか?
問題あるリーダーシップ手法
ホームズは、セラノスの業務に関わるあらゆる細部を監督し、彼女の承認なしには何事も進められなかったとされる。こうしたリーダーシップスタイルは、良く言っても「権威的」だ。マッキンゼー・アンド・カンパニーが行った最近の調査では、リーダーシップスタイルとポジティブな職場の風土との間には密接な相関関係があり、権威的なリーダーシップスタイルは心理的安全性に有害な影響をもたらすことが示された。
セラノスの職場に欠けていたもの
職場の心理的安全性からは、意思決定の改善、従業員のインクルーシブ意識の向上、リスクを恐れない姿勢などのさまざまな利点が得られるということは、多くの研究結果で示されてきた。さらに、企業側が自らのビジネスにある問題を早期に発見して軌道修正できるという利点もある。問題に初めに気づくのは、従業員だ。安全に声を上げられると感じられなければ、問題に気付いてもそれを口にしない可能性が高いだろう。
これこそが、セラノス社内で起きていたことだった。同社では多くの主要な従業員が、会社の行為に抗議したり、その職場で働き続けることに恐怖を覚えたりして退職した。例えば、内部告発者のエリカ・チェンは、人事部長から電話を受けた時、セラノスで働いていた時の自分がいかに恐怖を感じていたかを思い出したと証言した。心理的安全性があるかどうかは、職場で従業員が声を上げるか、あるいはその場では黙って内部告発者になるかどうかを左右する。