変わってゆくファンの形、変わらないブランドの理念
山口は、企業のブランディングが明確であることの重要性を、「係」に例えて次のように指摘する。
「パタゴニアだったら環境保護、テスラだったらサステナブルエネルギーへの転換促進というように、『あなたは何の係なの?』って聞かれたときに、ブランドがクリアな会社ほど『これをやってます』って断言できると思うんですね」
これは逆に言えば、敵の顕在化に繋がる。山口に言わせれば、理想の世界を阻害している者は全て敵になるため、「同じ敵を倒したい」と思っている人がそのブランドのファンとなり、株主や顧客、従業員といったステークホルダーを形成していくのだ。
「本来の資本主義というのはそういうものであって、僕が言う『資本主義をハックしよう』というのは、資本主義のシステムを上手く使いながら理想の世界をつくるための仲間を集めていくことを意味しています」
山口周
加えて、ファンの在り方は、デジタル化の進展によって変化しつつあるという。インターネットが発達した現代は、その企業が発信している情報以上に、その企業の周りにいる「ファンになった人」が発信する情報が要になっていると山口は話す。
「100人のうち1人か2人でも強烈に好きになってくれる人がいれば、成立するのがいまの世の中なんです。『これが素敵だと思う』というものを徹底的に突き詰めると、その人と同じ感性を持った人が強く共感してくれるっていうことが、いろいろなところで起こっているんですよね。
例えば、キャンプ事業で有名なスノーピーク。YouTubeで社名を検索にかけると、世界中のファンが、まるでエバンジェリスト(伝道師)のようにブランドの素晴らしさを拡散していることが分かるんです」
これに対して、朝霧も「中小企業やスタートアップが成功しやすい環境が整ってきている」と賛同した。
その一方で、いくら優良とされた企業であっても、時代の荒波の中でそのブランド力を減退させていった事例は存在する。対談の最後に、谷本は、サステナブルなブランドを構築するためのヒントを2人に聞いた。
山口は、「それぞれの人が想うことには必ず価値がある」としたうえで、ヒューマニティ(人間性)に根差すしかないと答えた。
「どこかに無理があったり、何かに犠牲を強いていたりするブランドって、いつか消えていっちゃうと思うんですね。仮にブランドが衰退していった場合、復活のために立ち返るべきなのは『原点』なんです。創業時の理念って基本的に人間性に根ざしているものなので」
一方、朝霧はこれまでの歩みを振り返るように次のように話した。
「創業者の考えた理想って、非常に哲学的なものなので、変えてはいけないことだと思います。だけど、この社会の在り方そのものや生活の仕方が変わっていったら、やっぱり変えなければいけないことはどうしても出てきますよね。
大切なのは、コアな部分とそうじゃない部分を行ったり来たりしながらブランドの在り方を考えていくこと、そう私は思っています」