90人の『まぁ良いんじゃない』より、5人の『絶対にこれがいい』
中小企業の経営者がブランディングの際に意識すべきポイントとは何か。この問いかけに対して、山口は「尖り」、朝霧は「理想の世界はどのようなもの?」という言葉をそれぞれ掲げた。
山口は「尖り」が意味するものをこう説明する。
「何かモノを売り出したり、サービスを開発したりするときには、消費者側からのさまざまなリクエストに応えようとします。しかし、その全てに対応しようとしているうちに訳が分からなくなって、結局何者にもなれなくなってしまう場合がある。
大事なのは、100人のうちの90人くらいが『まぁ良いんじゃない』って言ってくれることよりも、たった5人でも『絶対にこれがいい』って言ってもらえること。
つまり、『取るマーケット』と『捨てるマーケット』、また、『相手にするお客さん』と『相手にしないお客さん』の違いをはっきりさせて、対峙すべきターゲットの切っ先を尖らせていくことが非常に重要なんです」
しかし、実際に「尖り」にこだわるのは簡単ではないかもしれない。尖らせていくべき強みがそもそもどこにあるのかが分からない企業もあるだろう。谷本は、「中小企業がどのように尖りを見つけ、先鋭化させていくべきなのか」という疑問を投げかけた。
モデレーターを務めた谷本有香
すると山口は、「自信」の大切さを説いた。
「例えば、家電業界にバルミューダという会社がありますが、そこの商品開発の基本的な考え方は、社長の寺尾(玄)さんが心底欲しいと思ったものだけをつくること。実際、桁違いに高額な価格で販売されても、購入者はたくさんいるでしょう。
『尖り』っていうのは世の中や自分の外側にあるものじゃなくて、自分の内側にある好みとか信念とか、価値観みたいなものを突き詰めていくところで生まれてくるものだと僕は思っています」
山口が言及した「尖り」の重要性は、朝霧の掲げた言葉にも通ずるものがある。
コエドブルワリー創業のきっかけにあるのは、「豊かなビールの楽しみ方を人々に提案したい」という想い。朝霧は、自分たちの理想の世界を具体化していくなかで、切り捨てていくべき領域がおのずと明確になっていったと話す。
「いまでも、良い意味で顧客の声を聞かないです。特に、資本が限られている我々のような小さな会社にとっては、顕在化したニーズの製品化よりも、もう少し先にある未来で理想を形にした提案をし続けることの方が大切だと考えているので」