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2021.11.05

限界を決めない。障害のある人の「才能」を伸ばせる社会へ

(左から)ヘラルボニーの松田崇弥・文登


「動かした命がある」という原動力


崇弥:僕は、学生の頃から「障害福祉」という分野で起業してみたいと思っていましたが、計画もほぼないまま、突然思い立って会社を辞めました。それで文登に電話すると、その時は「俺は辞めないよ」って言われました(笑)。でも少し後に退職を決めてくれ、一緒にヘラルボニーをやることになって。「この選択は間違いだったかな」と悩むことありましたが、今思えば結果的にいい方向に進んでいますね。

僕が大切にしている言葉に、「人は知らず知らずのうちに最良の人生を選択している」があります。まさにこの言葉どおりだなと実感しています。

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文登
:僕は、ヘラルボニーが発足する前に立ち上げたブランド「MUKU」で活動をしていた時の話なのですが、初めて地上波の番組に出演した際の経験が糧になっています。番組の放送後、出生前診断でお腹の中にダウン症の赤ちゃんがいることがわかった、という妊婦さんから連絡があったんです。

「障害のある子を産むことはつらくて苦しくて悲しいことで、その子の将来を考えたら産まないって選択をしていた。けれど、MUKUの活動をテレビで見て、嬉しいことも楽しいこともある。そうわかったなら産むことを決めました」という内容でした。

僕はそのとき、「彼女が“産む”と決めたことを喜ぶ」というよりは、大きな責任を感じたんです。

創業当初は企業に営業に行っても、アートそのものの価値をなかなか分かっていただけず悩むこともありました。振り返ると泥臭くやっていたなと思います。そういうときにモチベーションにつながったのが、先の妊婦さんの言葉でした。

「あの時生まれてきた子が幸せに生きていけるような未来を、自分たちが作っていかなきゃいけない」と思うと頑張れるんです。「自分たちの活動の影響で人生が動いた人が1人でもいる」ということは常に大きな原動力になっています。

文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=杉能信介

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