「ブランド」が人を振り向かせる
崇弥:ヘラルボニーのミッションの中には、「“普通”じゃない、ということ。それは同時に、可能性だと思う」という一節があります。
僕たちは「健常者も知的障害がある人もみんな一緒」ではなく、「知的障害のある人だからこそ描ける」と考えているんです。そうやってセグメント性を強めて発信していくことで、知的障害のある人や「障害」という言葉が持つイメージを変えていきたい。
ヘラルボニー・松田崇弥
こうした思いを、「僕たちは誰に届けたいんだろう」と考えたとき、浮かんだのは地元の同級生たちでした。僕たちは岩手県にある人口1万人ほどの町の出身なのですが、当時、通っていた中学校では、障害のある人をバカにするような空気感がありました。
そんな環境で育った同級生たちに“福祉×アート”をそのままぶつけても、きっと「自分には福祉もアートも関係ない」と感じる人が多いと思います。じゃあどんなものに関心があるのか。観察してみると、高級車ブランドや世界的に有名なファッションブランドといった憧れのブランドを持つ人は多かったんです。だから、ヘラルボニーもそんなブランドのひとつになれれば、と考えました。
ブランドには大きな力があります。“福祉×アート”を「ヘラルボニー」というブランドとして見せることで、地元の同級生にも「へラルボニー、かっこいいじゃん」と受け入れてもらえたらいいなと。
「才能」が適切に評価される社会に
文登:持ちうる才能を適切に評価されるためには、ご家族の協力も必要です。小さい頃からずっと愛情を持って育ててきたがゆえに、「この子にはそこまではやらせなくていい」などという制限をかけてしまうことで、成長の障壁をつくってしまうことがあるのです。
例えば、僕たちが契約している作家さんも、はじめにお声がけしたときには親御さんから「息子の落書きみたいな絵をありがとうございます」と言われたりしました。でも、実際に作品が展覧会など様々な形で社会にアウトプットされることで、ご家族も子どもに対する肯定感が蘇っていくんです。
「ヘラルボニー/ゼロから始まる」
そもそも現在の障害福祉は「就労支援施設」という名称が象徴しているように「“就労”するということが正解」で、それを“支援”するという「健常者に近づけていく、“普通”を目指す」ことが正解とされています。
もちろん、安定的に収入を得て生活していくためには、それも非常に大切なことなんですが、違う見方もある。「障害のある人達が、健常者に頑張って近づいていく」という構造を、「健常者側がどんどん障害のある人に近づいていく」というふうに変えたい。その方が優しいし、面白いと思うんですよね。