松山英樹を率いた新世代コーチ、目澤秀憲の指導論


目澤は、それまでコーチを付けずに独自の理論でプレーをしてきた松山選手の心を掴み、チーム松山の一員としてツアーに参加。着々と存在感を増していき、マスターズ優勝へと導いた。控え目で多くを語らず、しかし関わる人の輪に自然と入っていける手腕は、天性の性格に加えて、ある経験を通じて培ったものでもある。

レッスンプロ時代に、社会経験を積む為に勤めたスターバックスのアルバイト。それまでゴルフの世界しか知らなかった目澤にとって、グリーンのエプロン姿で店頭に立った1年間は、ホスピタリティ溢れるサービス業の奥深さを知るきっかけになった。「コーチはサービス業です」と、真摯で謙虚な姿勢で語る。


松山英樹

目澤は現在、河本結、有村智恵、永峰咲希といった女子プロ選手達を指導しているが、男子プロと女子プロでその方法に違いはないという。また、コーチを付けることで“伸びる人”か“伸びない人”かの定義も、目澤の中では明確に定まってはいない。

それは、目澤自身が固執した考え方を持つことなく、「やってみないと分からない」という実践派だからだ。

「自分自身、試行錯誤しながら前に進んでいます。例えば、この方法が上手くいかなければ、反省点を踏まえて新しいことに挑戦してみる。さっと切り替えて前進していくことが大切だと考えています」

ゴルフ観とファッション観の意外な共通項


松山選手がマスターズ優勝を決めた当日。ゴルフ場のカラーが紺だと聞いて、目澤は紺のウェアに身を包んでいた。

本人は謙遜しているが、関係者の間では、お洒落だと専らの噂だ。そのこだわりは、「コーチをする時、選手の身体に合った動きを見つけるのは、型にはめないことが大切です。無理やり型にはめると、そのスウィングを嫌いになってしまう。洋服のフィッティングと同じかも知れません」と、過去に取材されたコメントからも伺える。

ウェアについては、「選手よりも目立たないように、赤や黄色などの華美なカラーは避けています(笑)」という。愛用しているキャップは、スポンサーであり、国内最大規模の診療データベースを保有するメディカル・データ・ビジョンが展開するPHR(パーソナルヘルスレコード)システム「カルテコ」のロゴがアクセントだ。



ゴルフ界に還元したい


将来の目標は漠然と持ってはいるものの、口にはしないのが目澤のスタイルのようだ。言葉少なながら「ゴルフ界に還元したい」とだけ語る。

今育てている選手からジュニアにまで裾野を広げていきたい。それに向けて具体的に何ができるかは、自ら実践を重ねている“夢の途中”の段階。しかし、プレイヤーからコーチに転向して、一流コーチと認められ、ステップを駆け上がっている今は、遠い夢より、近く行われるツアーに集中することで頭がいっぱいなのかもしれない。将来、日本のゴルフ界を変えるであろう壮大なチャレンジは、まだ始まったばかりだ。

取材・文=中村麻美

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