コロナ禍で始めた朝夕のリモートミーティング
5号機の開発を進めるうえで、技術面とは別の大きな課題に直面する。新型コロナウイルスだ。
「感染対策をとりつつロケットの設計製造を進めないといけないため、私たちもリモートワークを導入しました。どんな仕事もそうだとは思うのですが、ロケットの開発には多くの関係者がいるわけです。それをリモートワークで進めていくことは、非常に難しいと感じました。
やはり、個々で仕事を進めないといけない分、通常よりもコミュニケーションが分断されてしまいますから」。
このデメリットをメリットに変えるために井元が始めたのが、朝と夕方にチーム全員が参加する10分程度のリモートミーティングだ。
「『今日はどうする』『今日の結果はどうだった』『今後どうするか』など、チーム全員でコミュニケーションを図るようにし、これは今でも続けています。全体の情報共有という意味では、コロナ禍の前よりできているようにも感じています。
また、リモートワークでは一人ひとりの判断が重要になってきます。以前なら近くにいてすぐに相談できたけれど、物理的にそれができない。だからこそ、いつでもリモートで呼び出してもらうように徹底し、なんとかズレを補ってきました」。
射座(写真下のコンクリート部分)に据え付けられたイプシロン。打ち上げ時の音響が小さくなるよう設計されている。(写真はイプシロン試験機)
コロナ禍前にも負けないチームワークを高め、打ち上げまで漕ぎ着けた5号機。当初から”世界一コンパクトな打ち上げ”を掲げているイプシロンには、数々の世界に誇れる技術が使われているが、そのひとつに「射座」があると井元は語る。
「(イプシロンを打ち上げる)内之浦宇宙空間観測所にあるコンパクトな射座には自信があります。射座とは、打ち上げ時にロケットを据え付ける部分なのですが、ほかを知っている人からすると、『なんでこんなに小さいんだ』と驚かれます。
この射座はコンパクトなだけでなく、打ち上げ時の音響が世界トップレベルで小さくなるよう設計されています。ロケットの爆音は搭載する衛星に悪影響を及ぼしますので、衛星にとってもメリットがあるんです」。
イプシロンSがめざす、新しい宇宙輸送の道
5号機と並行し、次なる大きな進歩としてイプシロンSの開発も進めている。昨年3月に発足した「イプシロンSロケットプロジェクト」は、H3ロケットと技術を共有化することが特徴のひとつで、井元も「H3とのシナジー効果を発揮できれば、国際競争力を高めることができる」と話す。
「もうひとつの特徴は民間移管で、民間の優れた部分を活用し、そこにJAXAの経験や知識を注入します。例えば、低コスト化が目下の課題ですが、同じ設計でも製造に工夫を加えることで価格を下げることができるかもしれない。このような民間とのタッグは、ロケット開発にいい未来をもたらすと思っています」。
今後、衛星打ち上げの流れは、より大きな衛星とより小さな衛星で二極化すると言われている。