「環境に負荷をかけず、持続可能でかつ資源を大事にする農業を“エコロジー型農業”と言いますが、これは緑の党の遺伝子です。そして、それは有機農業の原理と重なる部分が多い。だから緑の党と有機農業の結びつきが強いのです」とハーン氏は説明する。
緑の党は、1979年、エコロジーを旗に掲げた政党として誕生した。名前のイメージから環境関連の主張に偏っていそうに思われるが、政策の範囲は社会全体に及ぶ。というのも、緑の党の元となる組織が、60年代の学生運動に象徴される反体制運動に始まり、「反原発」「反核・平和」「女性解放」「旧東ドイツ民主化」「障害者、移民、同性愛者などの人権」などと、多様なルーツを持つからだ。
ハーン氏によれば、有機農業と緑の党の親和性が高い理由はもう一つあり、両者の『ソーシャルベネフィット(社会的利益)』に対する関心の高さだという。「例えば、従来型農業によって汚染される水や土壌は『負のコスト』ですが、そのコストの多くは汚染した張本人である法人や生産者ではなく、社会全体が背負されるという極めて理不尽な『費用の外部化』が図られてきました」とハーン氏。
緑の党も有機農業も、農業という営みが社会に与える影響に高い関心を持ち、ソーシャルベネフィットがより高い選択肢を選んできたという。
BW州のハルトハイム近郊で行われているオーガニックの養蜂業の様子(Getty Images)
緑の党州首相の誕生
2011年に福島原発事故が起こると、ドイツ国内で反原発の動きが強まり、国内初となる緑の党の州首相がBW州で誕生した。緑の党出身のヴィンフリート・クレッチュマン州首相は、有機農業を営んでいた経験からオーガニックの専門知識を持ち合わせ、生産者と消費者のニーズを理解する数少ないリーダーだと言われている。オーガニック産業界との強固なネットワークを活かし、州内における有機農業推進を多様なレベルで後押ししてきた。
現在BW州は、2030年までに州内農地40%をオーガニック化するという、ドイツ国家目標の2倍にあたる野心的な数値を掲げている。
この目標数値に対しハーン氏は、「BW州はドイツ有機農業の原点です。いわゆるオーガニック創始者や歴史的に重要だと言われる業界の人物の多くが当州から輩出されてきました。また、州内消費者の意識や財政余力が高いこともオーガニック需要を底上げする要因となっています」と述べた。