また、東田は自社ブランドに必要以上にこだわらなかった。大手がひしめくコーヒー市場で自社ブランドを掲げて直接戦うのではなく、シンプルで汎用性の高いドリップバッグの特性を活かし彼らのラインナップに使ってもらう受託生産販売に絞ったのだ。
年間で512億杯(NuZee調べ)も飲まれるコーヒー・インフラがすでに存在する米国。これで一気に「面」を取りに行く。その結果、ハワイのライオンコーヒーなど、米小売り5社との受諾製造販売契約までたどりつく。信用を勝ち取り、市場に適した販売戦略で、言葉だけだった「ワンダフル」を売り上げに変えた。
米国で主流のプラスチック製コーヒーリフィルは昨今の環境問題から問題視されるようになった。ライフスタイル志向の変化も、ドリップバッグの支持につながる大きな要因の一つだ。
米国での売り込みで痛感した人脈という壁。無名の会社ゆえの人材確保の難しさ。厳しい現実に対し、出資者と対話を重ね、日本生まれのドリップパックを米国で流通させるモデルを作り上げた。そして2020年、念願のナスダック市場の上場につながるのだ。「上場によって、我々はパブリックカンパニーとして米国の投資家に業績と姿勢をきっちりと見せていかなければならない」と語る。
上場後のNuZeeは、人材と戦略の面を強化するため、経営陣の充実をはかっている。ソニーチャイナ総裁だった栗田伸樹、元スターバックス(シアトル)でCPG(Consumer Packaged Goods)を国際事業に飛躍させた豊田朋子らをはじめ、経験が豊富な人材が集まっている。
コーヒー大国と呼ばれるのは米国だけではない。エコで機能的なドリップバッグを世界へ浸透させるため、米国ではたった25人の小さな上場企業は発展のスタート台に立った段階だ。
また、東田は「世界に売り込める日本の商材を発掘したい」と日本でNuZee Investmentを立ち上げた。
日本では当たり前のドリップバッグは世界にはない。特殊な技術やノウハウもいらない。「身近にあるアナログなものは海外に輸出できる」という東田は、米国、ニュージーランド、シンガポールなど様々な国で事業を経験してきた経験から、そう確信している。大化けする日本のアナログな価値を証明して見せた者の言葉だ。
ひがしだまさてる◎愛知県名古屋市出身。30代前半で金融、証券会社を設立。38歳で家族とニュージーランドへ移住しNuZee inc.の前身となるiSpring Limitedを創業。拠点をアメリカに移しNuZee inc.を設立。