日本流STEAMで脱「役に立たない教育」


これが『知る』『創る』の無限サイクル。その原動力を生み出すのは、生徒たちの好奇心=ワクワクなのです」

そのために必要となるのが、構想を実現するための2本の柱、「学びのSTEAM化」と「学びの個別最適化」である。

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知識が創造に直結する「学びのSTEAM化」


「タテ割りの教科知識をヨコにつなげて組み合わせる感覚を磨く必要はありますよね。なぜなら現実世界の課題は、あらゆる教科を横断することがしばしばだからです」

米国ブッシュ政権下で発案、オバマ政権下で国家戦略として掲げられた理数教育モデル「STEM」に、Art/芸術・リベラルアーツを追加し、より教科横断の特色を強めたのが日本独自の「STEAM」だ。

「知識がどのように現実に生きるかを知るための方策を一歩進め、どのように具体的な“仕事”につながるかまでフォローするのが学びのSTEAM化です。素晴らしい仕事に仕上げるために必要な知識を得るのなら、当然生徒たちはワクワクします。これこそ学びの本質かなと思います」

そのために未来の教室プロジェクトはさまざまな講座プログラムを用意している。わかりやすいのは、ゲーム好きを集めて行った「エシカル・ハッカー(正義のハッカー)育成講座」だろうか。ここではサイバーセキュリティについて、時事的話題や実技も含めて学び、その知識をもとに企業のショッピングサイトの脆弱(ぜいじゃく)性を見つけ出すチャレンジを行っていく。

その行為自体がほぼサイバーセキュリティ実務。つまり「中毒気味なゲーマー」の資質・能力が実は仕事に生かせる可能性を体験できるのだ。

20年に行われた「ロボティクスプログラム」では、さらに複合的な観点を生徒が学び合う講座だ。北海道、徳島、沖縄の6校がリモートでつながり、ドローンを活用して魚群を感知するスマート漁業の可能性についてアイデアを出し合った。

「果たして魚群を各船で探すのは効率的なのか、SDGs的な観点から資源枯渇につながる乱獲を防ぐためにも、スマート漁業は有効ではないかなど、さまざまなアイデアが飛び交いました。魚をとるためのテクノロジーだけではなく、サステナビリティを視野に入れることで社会課題の解決にもつながることを生徒たちは知るのです」

そして社会のルールづくりを学ぶ「みんなのルールメイキング」プロジェクトが扱うのは、校則。変えたい校則をGoogleフォームでアンケートし、「何の目的のルールか、意味があるのか」を本質から考え直して、学校側に新ルールを提案する。弁護士とのオンラインミーティングを通じ、校則を論理的に考えて改廃します」
次ページ > EdTechで現実化する「学びの個別最適化」

text by Ryoichi Shimizu | edit by Akio Takashiro

この記事は 「Forbes JAPAN No.087 2021年11月号(2021/9/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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