キャリア・教育

2021.09.16 08:00

コロナ禍で地方移住4倍 1年で8人の移住転職者を採用した「イツノマ」とは

「イツノマ」に移住転職したメンバーたち


「町の人事部」を目指す


イツノマの事業には2つの柱がある。ひとつは、都農町のデジタル環境の整備だ。
advertisement

2020年5月に、全町民がデジタルを活用し多世代交流を促す「デジタル・フレンドリー」事業を町に企画提案。都農町のウェブサイトの記事作成・運用業務を受託し、町民と行政の双方向型ポータルサイトを開設した。さらに、65歳以上のみで構成される世帯と中学生以下の子どもがいる世帯の計約2000世帯に、タブレット端末を配布する施策も進めている。

2つ目の柱は、町唯一の中学校である都農中学校でのキャリア教育支援。2021年度は、総合的学習の時間を年15時間使ったキャリア教育と、町内30社で職場体験を行うプログラムを実施している。

そんな都農町の基幹産業はブドウに代表される果樹などの農業や、畜産・食肉加工など、1次産業と2次産業が中心。生産年齢人口が減少し、地域経済の縮小が喫緊の課題となっている同町で鍵を握るのが「移住転職者」だという。
advertisement

null
都農町のブドウ農園

「僕は、経済のもとになるのは“人”だと思っています。2つの事業を推進しながら『都農町の人事部』をも目指すイツノマが、農業の後継者の採用支援をしたり、町外・国外の人材を獲得したりしていくことが都農町の経済拡大に直結すると考えています」

移住転職はキャリアをつくるチャンス


イツノマへの移住転職者の経歴は、プログラミング経験者やカフェの元店長、日本語教師など多岐にわたる。平均年齢は、中川を除くと27歳という若さだ。

2020年11月に入社した執行役員の吹田あやかも、コロナ禍に移住転職で都農町にやってきたメンバーのひとり。奈良県出身の吹田は、ベトナムで海外転職者向けのキャリアコンサルや大学生向けのグローバル研修の企画、運営に携わってきた。

帰国後にUDSに入社し、主に新卒採用を担当。ただ、新型コロナの影響で新卒の採用が止まり、ポジション替えになるタイミングで転職を決めた。

「私は奈良県の田舎出身で、かねてから地域のキャリア教育に携わりたいという思いがありました。自分のキャリアを考えたときに、本当にしたいことが都農町にあったので迷わず移住しました」と吹田。現在は、主に都農中学校のキャリア教育や人事業務を担当している。

null
宮崎県の中東部に位置し、東側は日向灘に面する都農町

他に、飲食店で調理を担当していた社員など、コロナが引き金となって転職や移住を考えた人が多いという。中川は、「移住転職者全員に共通するのが『東京より都農の方がやりたいことができると考えた』という意見です。『このままこの職場にいてもスキルが伸びない』『コロナがなければもっと活躍できたのに』などと、自身のキャリアを考える機会が増えたのではないでしょうか」と語る。

吹田は、移住することに対して「海外生活も長かった自分にとっては、ハードルは高くなく、それほど不安もなかった」という。しかし、移住後には若者の少なさを痛感している。

「特に同年代の20代後半~30代前半の女性が少なくて、相談できる相手があまりいません。若い人たちと一緒に何かを企画することは難しいと感じますね。ただ、その『若者が少ない』というストレスを原動力にして、どうやったら外から若者を呼べるのかを地域の方とともに考え、アクションできる仕組みを作っていきたいです」

中川は、「移住転職は、新しいキャリアをつくるチャンス」と表現する。同社では、メンバーの個性を生かして、交通手段がなく買い物に行けない高齢者向けに食のECサイトを立ち上げたり、「プロのバーベキュー師」とバーベキューを楽しめるホステルを立ち上げたりと、ユニークな企画を考案している。

「労働人口が多い東京では、優秀でかつ多くの関門をくぐり抜ける努力がないとチャンスはつかめない。でも都農町は誰もいないので『どうぞどうぞ』の世界です(笑)」
次ページ > 課題は移住転職者の「定住」

文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事