しかし、伝統的なお茶にフルーツやチーズなどをトッピングしたメニューでZ世代を熱狂せた深圳のスタートアップは、その魅力を失ってしまったかのようだ。共同創業者の彭心(ペン・シン)と趙林(ジャオ・リン)夫妻はわずか2カ月でビリオネアの地位を喪失した。
各人が同社の28%の株式を保有する夫妻の保有資産は、6月末の上場時にそれぞれ約11億ドル(約1200億円)になっていた。しかし、奈雪の株価は上場時の約半分にまで下がり、夫妻の資産もそれぞれ6億2400万ドルまで下落している。
背景には同社が、衛生管理上の懸念や、収益性の見通しが立たないなどの問題に直面したことが挙げられる。
新華社通信の記者が覆面調査を行い、店舗にゴキブリが居たことや、腐った果物を用いていることを公表した結果、奈雪は規制当局に召喚され、8月上旬に北京の2店舗を休業させた。人民日報は社説で、「奈雪はマーケティングに注力することで、顧客の支持を獲得したが、それも短期間で終わるだろう。長期的な支持を得るためには、食品の安全性やクオリティを高めていくことが必要だ」と指摘した。
今回の騒動の以前から、同社の株価は暴落していた。香港のKaiyuan Capitalの最高投資責任者であるBrock Silversは、「奈雪の運営コストは単純に高すぎる。同社の主な課題は、収益性を高めるための説得力のある道筋を示せていないことだ」と指摘していた。
昨年、中国の66都市で約500店舗を新設した奈雪の売上は、2019年から22%増の4億7300万ドルだったが、損失は前年の620万ドルから3200万ドルへと大幅に拡大していた。目論見書によると、損失の増加の原因は新型コロナウイルスによる店舗の閉鎖に加え、新鮮な果物や高級茶葉の確保にかかる仕入れコストで、昨年の売上高の約40%を占めていた。
奈雪の人気メニューの一つは、約4ドルで販売される鮮やかなパープルのドリンクのSupreme Cheese Grape Teaで、高級ウーロン茶に新鮮なグレープジュースを加え、ホイップクリームをトッピングしている。
上海のコンサルティング企業Kantar in Chinaは、「ティーハウスの運営はコーヒーチェンよりも難しい。お茶の提供はコーヒーよりも複雑で、果物の衛生管理には特別な配慮が求められる」と指摘した。