「Creative Ideation for R&D」のなかでも一見地味だが、クリエイティブ・ブリーフィングは大事な過程だという。その理由について、川村はこう語る。
「実際にプロジェクトを始めると、開発期間が数カ月や数年に伸びていくなかで目的を忘れがちになります。なので、できるだけシンプルに課題や目的などを言語化して資料にまとめておくと、いつでも立ち返ることができ、企画のコアがブレていきません」
らしさを引き出す「体験後感」
では、実際にブリーフ資料を見ていこう。前回のヒアリングサマリーがまとめられた上で、課題や対象、目的などが整理されている。由紀精密は、ホールディングスとして広報の専門部署を設け、自社広報やPRに関する企画、ライティング、デザインなどを行える体制を持っているが、マーケティングに課題意識を持っている。
具体的にはブランド確立のためのアクションを行なっているが「名前が世に広がる」「新市場開拓につながる」という効果を実感できておらず、効果的なPRやファンづくり、または事業に繋がるまでのマーケティング設計をした施策が必要だという。
企画の対象としては、川村は「高精密、高品質というベクトルに価値を感じる人たち向けに考えること。ここを研ぎ澄ますことが大事だと感じます」と語る。
Whateverが作成したクリエイティブ・ブリーフ資料1
また由紀精密らしい取り組みを出すために「体験後感」も設定。Whateverでは「CTA(Customer Take Away)」と呼び、クライアントらしさを引き出すイメージを言語化したものだ。ここには「未踏、困難へのチャレンジを感じる」といった由紀精密の強みのほか、永松がヒアリングの最後に強調していた「ものづくりを楽しんでいる」という視点も盛り込まれていた。
Whateverが作成したクリエイティブ・ブリーフ資料2
これまでは企画を考えるために必要な前提を整理してきたが、「Fact」では実際にアイデアのネタになる要素を抽出している。ここでも前回明らかにした「精密=完成度+美しさというポリシー」や「未踏領域への開拓精神(宇宙、人体)」などがまとめられた。
ここで川村は「話題化するという意味では、世界最高の○○や、もっとも細かい○○といったシンプルなヘッドラインと一枚絵で驚かされるようなアイデア開発を目指すべきかなと思います。ギネス記録を目指すような試みも、そういう意味では分かりやすいかもしれません。スケール感とCTAを大事にしながら発想を広げてみましょう」と助言した。