今回の動きは、電気自動車市場に参入する自動車メーカーにとっての重要鉱物(critical minerals)の重要性が増していることを示している。エネルギー転換を推進するためのサプライチェーン、なかでも電気自動車部品における安定性がますます問われているのだ。GMはCTRとの合意により、2023年までに22車種に搭載予定のUltiumに使用するリチウムを、米国内から安定して調達できるようになる見込みだ。
リチウムは、2018年に米内務省が米国経済と国家安全保障にとって重要と判断した、35種の重要鉱物のひとつだ。この中には、半導体やバッテリーの生産に使用される17種類のレアアース(希土類元素)も含まれている。再生可能エネルギーへの転換には、こうした鉱物の安定供給が不可欠だ。
しかし、現在の米国はこれらの資源の供給を外国に依存している。内務省が重要と判断した35種類の鉱物のうち、2019年の時点では13種が100%海外から輸入されていた。2018年の段階で、米国は精製済レアアースの98%以上を中国から調達していたが、この傾向は2021年の現在も続いている。
中国が重要鉱物やレアアースを豊富に精製できるのは、人件費の低さと環境規制の緩さのおかげであり、中国政府は、世界各国が資源の供給源として中国に依存するよう仕向けている。
米国は、中国との関係悪化を背景に、中国への依存が将来的に大きな損失をもたらす可能性を考慮し、トランプ政権下で重要鉱物サプライチェーンの多様化に取り組みはじめた。
GM向けのバッテリーグレードの水酸化リチウムと炭酸リチウムの大部分は、カリフォルニア州インペリアルのソルトン湖地熱地帯にCTRが保有する「ヘルズキッチン・リチウム・アンド・パワー(Hell’s Kitchen Lithium and Power)」から供給される。ソルトン湖の塩水中に含まれるリチウムは、全世界需要の40%を供給できる可能性があるとされている。
GMのプロジェクトに対しては、環境保護団体から、リチウム採掘が地域生態系に悪影響を及ぼすという懐疑的な意見があがっている。一方、CTRのエンジニアチームは、採掘には地熱エネルギーを利用するためクローズドループのプロセスであり、完全に持続可能だと主張している。
環境影響への懸念から採掘施設建設が延期された例としては、グリーンランドで進められていた重要鉱物採掘の大型プロジェクトを、環境保護主義政党「イヌイット・アタカトギット(Inuit Ataqatgiit)」が停止させた例が挙げられる。
重要鉱物インフラへの投資やインフラの規模拡大には、環境配慮型の採掘技術が必要だ。再生可能エネルギーや電気駆動モビリティへの転換は、脱工業化を意味するわけではない。
米国が外国産レアアースへの依存を軽減させるためには、西半球、さらには北米で、安定したサプライチェーンを確立する必要がある。重要鉱物の供給源を多様化することで、中国とのあいだで重大な貿易摩擦が起こるリスクが低下し、長期的な国家安全保障と経済の健全性が向上するだろう。