はるかに時代が下って明治維新を迎えると、日本は欧州から国家づくりの仕組みや最先端技術を輸入した。そして戦後は米国が師匠となった。
長年にわたる旺盛な学習意欲の積み重ねの成果で、日本は世界有数の豊かで平和な先進国の建設に成功した。いまや科学技術は多くの分野で国際的にトップレベルだし、世界をリードする偉業も少なくない。発光ダイオード、カミオカンデなど多くの先端技術がその表れだ。
最近では、小惑星探査機、はやぶさ2が偉業を成し遂げた。3億kmかなたの小惑星から鉱物サンプルを地球に持ち帰るミッションは、「日本からブラジルに置いた直径6cmの的に当て」、その地面をはぎ取って戻ってくるような離れ業である。はやぶさ2は、実に7つの「世界初」をやってのけた。米中露よりはるかに少ない予算でだ。基礎科学、応用科学の総合力なくしては達成不可能である。
もちろん、最近の中国の勢いと資金力を前にすると、うかうかしてはいられない。米中の熾烈な競争の渦に巻き込まれてしまうリスクもある。しかし、対応を誤りさえしなければ、日本の技術は大丈夫だと思う。
半面、深刻なのは国や企業の仕組みづくり、いわゆる社会科学的な分野が依然「途上国並み」と思われる点である。
日本の古代の法制は遣唐使がもたらした律令制を基盤としたし、明治の改革は欧州の法制を範とした。
箕作麟祥といえば明治法制起草の立役者である。幕臣時代に英語を修め、フランスにも留学した彼が、江藤新平から命じられた大仕事は、ナポレオン法典の翻訳だった。箕作は日本民法の父ともいわれ、権利、義務、動産、不動産などの訳語を編み出したそうである。ちなみに、近代日本の法制度は、ローマ法、フランス法、ドイツ法が混在しつつ、律令制を底流とする明治国家の理念も追求していたので、非常にわかりにくいものでもあった。いずれにしても要は翻訳だった。