都市マネジメントにおいて官民連携の重要性はいうまでもありません。行政、大学(アカデミア)、住民(市民セクター)、さらに民間企業や団体の関係者が互いに少しずつ踏み込み議論を深める必要があります。しかし、各者の意図を踏まえつつも本来の目的・戦略を軸として常に見据え、各種サービスを創出しながら整合性をとっていくには、街づくりという長期的な取り組みを通じて舵取りを担う人材が必要です。
そうした人材には行政のリーダーがふさわしいように考えられがちですが、実際には自治体職員には異動があり、首長も選挙によって交代の可能性がありますから、一貫して長期間の取り組みを直接担当し続けることは困難です。異動については、多くの民間事業者の地域拠点でも数年置きに支社長が交代するなど、同様です。
一方、大学など学術機関の人材は長期にわたって取り組むことができますが、研究が主眼であり、多くの参画企業の論理も踏まえて力強くマネジメントできる人材は限られます。よって、地域をまとめる市民参画のリーダーであるアーキテクトは、その地域に根差すことができる組織のリーダーが適していると言えます。
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アーキテクトのミッションは市民にスマートなサービスを提供することです。都市OSが利用される以前の「行政や民間のサービスがバラバラに提供される時代」を省みて、「シングルサインオン(1組のID・パスワードによる認証を一度行うだけで、複数のWebサービス・クラウドサービス・アプリケーションにログインできるようにする仕組み)的な思想で住民にスマートなサービスが提供される次世代社会」を目指す船頭がその役割です。
連載第1回で触れた「オプトイン方式」(同意した上で市民がデータを提供する方式)は、データを提供し、活用することが自分たちの生活の質向上に効果があると市民が実感することで初めて浸透します。アーキテクトは、市民にとってのメリットは何かをつねに問い続け、その答えを発信し続ける存在であるともいえるでしょう。
デジタル社会は、人がより人らしく生きられる社会
繰り返しになりますが、スマートシティが実現するデジタル社会の本質は、市民にとってより良い暮らしの実現です。デジタルに対して仮に、無機質で人同士を疎遠にするような冷たいイメージを持っているとしたらそれは正反対です。
デジタルが高めるのはユーザーの体験価値(エクスペリエンス)です。自分たちがどんな環境で暮らしたいのかという市民の想いが原点にあって、それを実現するのにデジタルを活用するのであり、体験を創出していく取り組みは必ず人に寄り添ったものでなければなりません。スマートシティは新しい社会モデルとして働き方や医療、育児、教育といった市民生活の未来を描き、企業活動や事業・産業の未来も描いています。さらに行政や自治体運営、国・政府の将来像が大局として議論や検討の出発点となります。
スマートシティはどこも同じになるのではないか、と考える方もいますが、それは誤解です。それぞれのまちがもつ良さ、特長を伸ばしていくために、デジタルでまち運営の効率化を進めつつ、特長となる差別化要素の高度化を進めるものです。新しい事業を興したい、企業誘致を成功させたい、交流人口を増やして地域産業を発展させたい、定住者・移住者を招き入れて人口増と税収に結びつけたい。そういった目的意識を持つ方々は他の自治体の事例を表面的に真似するのではなく、他の地域には無い独自性は何かを考え、その独自性を伸ばすにはどうしたらいいか、そのためにデジタル技術が活用できるかどうか、検討することが必要です。