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2021.06.29 08:00

中国のイーロン・マスクが売る、EVメーカーを超越した「世界」

「Blue Sky Lab」の構想をプレゼンする李CEO

「Blue Sky Lab」の構想をプレゼンする李CEO

高級EVを手がけるNIO(ニオ)の販売戦略が面白い。次世代型電池の自動運転車を開発する一方、若い世代をサービスや体験型施設で虜にする。リアルな顧客にマーケターが迫る。


中国新興EV市場でトップをひた走るNIO(蔚来汽車)。2014年に創業後、わずか4年足らずで量産車の販売やニューヨークでの上場を達成した気鋭の企業だ。

この5月に発表したノルウェー進出を足がかりに、今後はヨーロッパ市場を狙うなど、勢いは十分。CEOの李斌(リー・ビン)と共同創業者の秦力洪(シン・リーホン)の野望には、さらに先がある。NIOの掲げるコーポレートタグラインは「Blue Sky Coming」。大気汚染がない、青空の広がる未来を描き、中国グリーン経済の旗手を自認している。

NIOは「中国版テスラ」と呼ばれることも多いが、顧客ターゲットはテスラと微妙に異なる。筆者はこれまで何度もNIOのディーラーに足を運び、NIOオーナーにじっくりヒアリングする機会をもってきた。高級車ブランドであるにもかかわらず、メインに据える顧客ターゲットの世代が、20代後半から30代半ばと圧倒的に若いのが特徴である。


クーペスタイルSUVの「EC6」。100kWhバッテリー満充電で最長615kmの航続距離をもつ。

若者のツボをおさえた世界観


近年、中国の都市部の若者は、経済的な余裕があっても無印良品のようなシンプルで洗練されたデザインを好み、旧来の派手で「成金的」なものを嫌う傾向にある。NIOの生み出す世界観は、まさに彼らの現代的なセンスと価値観に沿っている。

例えば、NIOオーナーだけが使える「NIOハウス」は、いわば「ハイクラスな会員制サロン」。コワーキングスペース、カフェ、ミニ図書館、キッズスペースなどを備え、オーナーとその同伴者は自由に使える。また、水彩画講座やハンドクラフト講座、音楽イベント、親子で参加できる科学実験イベントなどをオーナーに向けて開催。NIOの「購入後」に初めて使える場所であり、その広さと用途の多様さから、日本のディーラーにあるラウンジとはコンセプトも内容も異なる。


リビングの「NIO House」ラウンジ。予約制コワーキングスペースやライブラリー、家族向けのイベントスペースやキッズルームも備える。ショールームに絞った「NIO Space」も百貨店の一画など中国全土で展開。

いかにも現代的な上海人といった洗練された風貌のAさん(上海の建築会社に勤務する30代前半の男性オーナー)は語る。

「NIOハウスに行くのは月4~5回。ショッピングモールの横にあり、立地がよい。オーナーとして出入りすることに誇りを感じる。モールで買い物した後、一息ついて『自分だけの空間』を楽しむために訪れてコーヒーを飲むのが好き」。プライドが高いことが特徴の上海人である彼の言葉から、NIOオーナーとして「特権的な場所」を自由に使えることへの自尊心がうかがえた。

Bさん(上海の物流会社に勤める20代後半の男性オーナー)の感想はこうだ。「NIOハウスのイベントに参加すると新たな友人と出会える。皆、35万元(600万円相当)以上のクルマを所有しているから一定のハードルがある。同じようにクルマ好きで共通の視点をもつ人たちばかり」。自由で開かれた雰囲気をもちながら、可処分所得が高いクラスの人々が集う社交場として機能しているのだ。
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文=滝沢頼子(hoppin CEO)編集=神吉弘邦

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