政治専門メディア「ザ・ヒル」は、メモリアルデー(戦没将兵追悼記念日、毎年5月の最終月曜日)の直前の金曜日(5月28日)、米国内で196万人が空港を利用したと報じた。2020年3月以降で最多の人数である。
米国の全人口の半数以上がワクチンを少なくとも1回接種しており、航空業界はこれから上向いていくことが予想される。
ここでひとつの疑問が生じる。一体、誰が飛行機を利用しているのか。
パンデミックで溜まったストレス発散と、もうひとつの理由
その仮説を立てるのに役立つ、アメリカン・エキスプレス・トラベルの調査がある。同調査によると、回答者の78%が、2021年には「2020年のストレスを解消するため」に旅行したいと答えている。急速に回復した航空市場と本調査を見る限り、パンデミックで溜まったストレスを発散するために、多くの人が旅行に出かけている可能性がある。
また同調査によると、87%が「将来の旅行を計画することで楽しみが得られる」としており、63%が「将来の旅行を計画することでワクワクする」と答えている。他にも幸せを感じる(53%)、希望を感じる(53%)などが調査結果に並ぶ。旅行を計画すること自体が、人間にとって不可欠なものであると分かる。我が身を振り返っても思うが、旅行の計画がひょっとしたら楽しさや幸せのピークなのかもしれない。
さて、先ほどの調査では、別の興味深い結果も出ている。2020年に会えなかった大切な人に会いに行きたいと回答した人が、インドで86%、オーストラリアで75%など、各国で高い割合になっている。また、ニューヨーク・タイムズによると、フロリダ、バージニア、サウスカロライナ、ジャマイカに5つの施設を持つあるリゾートホテルは、家族の再会を目的とした予約が2021年分だけですでに506件入っており、247万ドルの収益が見込まれるという。家族や大切な人に会いたいという思いについても、人間の本能的なものなのだ。
パンデミックが世界中を襲い、対面でのコミュニケーションが困難になった。すると、ふとした時に、国内外に住む大切な人たちの顔が思い浮かぶようになった。人と会うという行為は、尊い。そこではエネルギーの交換が起こり、感情が動く。人生を歩んでいくことに対するモチベーションも上がる。リモートワークやオンライン会議が浸透した今も、人と会うという行為の価値は下がるどころか、ますます高まっているように思う。自由に移動できるようになり、大切な人と再会した時、感動の度合いはかつてない大きさになるだろう。
先述のリゾートホテルの例からも分かるように、大切な人との再会は、ビジネスチャンスをもたらす。航空業界はもちろん、安心して再会できるようサポートするサービスに、スポットライトが当たるだろう。キーワードは「安心」「安全」「快適」である。再会に関わる、これらを満たしたサービスがあれば、相応のコストを払ってもいいと考える消費者は多いはずだ。衛生面に配慮した空間や、快適な交通手段は、これから伸びる分野であろう。人間の根源的な欲求を満たすサービスへの需要が高まっているのである。
連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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