その動静は、ヘインズ氏の搭乗機が12日午後、京畿道烏山の在韓米空軍基地に到着したときから始まった。13日はソウル市内のホテル玄関から出る姿が撮影され、同時にこの日、非武装地帯(DMZ)と板門店の共同警備区域(JSA)を視察する日程が「明らかになった」という形で報道された。韓国メディアはDMZに向かうヘインズ氏らの車列を追いかけて撮影。その後、韓国軍合同参謀本部を訪問する写真も公開された。そして、14日、ヘインズ氏は文在寅大統領とも会談した。
情報機関の関係者の行動は基本的に非公開とするのが普通だ。情報機関トップは政治的な役割も担うため、行動が明らかにされることはあるが、あまり表だってはやらない。事実、ヘインズ氏は12日、都内で滝沢裕昭内閣情報官、朴智元韓国国家情報院長と3者で協議したが、会談は非公開とされ、正式な記者発表もなかった。では、なぜ、日本と韓国でヘインズ氏の活動に対する扱いに大きな差がでたのか。
過去、米国の政権交代の節目に、情報機関のトップが、米国にとって重要な関係国を訪れることはひとつの慣行とされてきた。そして、バイデン政権の最大の外交課題の一つが対中政策だ。日米関係筋によれば、ヘインズ氏は1カ月ほど前から、バイデン政権の情報トップとして訪日の考えを日本政府側に伝えていたという。まず、日本ありきの歴訪で、その際に日米韓協力を強調しているバイデン政権の姿勢を示すため、朴院長の同席も求めたという。
かつて、日本政府で情報(インテリジェンス)に関わった元当局者によれば、米情報機関高官が自らの外遊日程を積極的に公表した例はほとんどないという。情報機関にとって必要な仕事の一つが「口の堅さ」だからだ。相手から「口が軽い奴だ」と思われては、もらえる情報ももらえなくなる。自らの行動をアピールするような姿勢は、情報機関としてふさわしくない。ましてや今の時期は、バイデン政権が北朝鮮政策をまとめた直後にあたる。情報機関高官の外遊が様々な政治的臆測を呼びかねないタイミングで、自ら日程を明かすことはしないという。
ただ、相手国の立場を考え、黙認することはある。韓国メディアによれば、ヘインズ氏らの車列がDMZに向かった際、米側は追いすがる韓国メディアを排除するような動きは取らなかったという。この元日本政府当局者は「米国は、韓国メディアがヘインズ氏の動線を明かすことを黙認したとみて良いだろう」と語る。