久保田 宇宙探査は、以前は、夢はあるけれどもミッションがわかりにくく、うまくいかないこともあり、厳しい目で見られていました。相当の予算をかける割には、どんな成果が得られているのかわかりにくかったからだと思います。ミッションは何のために、どのように、何をしようとしているのか、また何が難しいのか、なぜそうなったのかなど、実際の説明会では資料を工夫したり、動画で説明したり、模型を使って動きを見せるなどして、みなさんに理解していただくことに努めました。いろいろな方に注目され、勇気をもらったという言葉もよく聞きます。若い世代にまで関心が広がったことによって、人材育成にも繋がると思っています。日本の宇宙探査は、「はやぶさ2」の後には、月へのピンポイント着陸に挑む「SLIM」、火星衛星からのサンプルリターンに挑む「MMX」と続きます。米国が月の有人探査を行うアルテミス計画がありますけれども、そこに日本が参画できるのも、やはり日本の技術が認められたからですよね。次の世代に期待します。
記者説明会中の久保田(左)と吉川(右)
──すぐに役に立つ、というような見方ではなく、生物の始まりの謎に迫ることが、人類みんなの共有知となることの重要性を伝えられたということでしょうか?
吉川 我々の地球と生命をきちんと理解しましょうというのが大きなテーマなんです。「それを知って何になるんだ?」という問いには、地球や我々自身の始まりを知ることは、そもそも知的な生物である人類だからこそできるのだと答えています。まさに人間であることの証だと。
久保田 「はやぶさ」初号機の時には、(有機物や水をあまり含まない岩石質と考えられている)S型小惑星であるイトカワの探査で、どちらかといえば惑星の起源を探るためだったのですが、「はやぶさ2」が探査したリュウグウは炭素を多く含むC型小惑星、我々の体を作っている物質の元になる有機物があるかもしれないと考えられていた天体だったので、「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」というキャッチフレーズで受け入れていただいたように思います。画家・ゴーギャンの言葉の引用でした。
──壮大な目標のためであると同時に、具体的に役に立つ、ということもあるのでしょうか?
吉川 例えば、プラネタリー・ディフェンスという、小惑星が地球にぶつかるのを事前に防ぐ、という考え方があるんですね。国際的にも活発な活動があるんですが、地球への天体衝突を防ぐには、まず相手の天体を知る必要がある。映画だと天体を爆破したりしますが、あれでは地球に破片が全部降ってきてしまう(笑)。今、技術的にできるのは探査機を何機かぶつけて軌道を微妙にそらすこと。ただし条件が限られていて、天体の大きさが200〜300メートル以下で、ぶつかるのが今から10〜20年後以上という時間的な余裕がある場合だけなんですが、探査機をぶつけておくと20年後には地球のすぐ脇を通過するぐらいには軌道を変更できる。このような条件に限れば、我々は天体衝突を避ける技術を持っています。
久保田 3億km離れたところに誤差1mほどの高精度で着陸できたという技術は、今後の月惑星探査で狙った場所の着陸探査に活かされますし、ドローンによる物流や災害地の救援など地上の応用も期待されます。宇宙では、小型で軽量で消費電力が小さいことがすごく重要になります。それは地上でもさまざまな分野で役に立つと思います。イオンエンジンは、推力が弱いので地球上で打ち上げるのは難しいけれど、非常に小さい粒子を高速で出しているので、何かに役にたつのではと思っています。実際に企業と組んで、高機能フィルム材のマイクロ波プラズマ除電処理システムの開発を行いました。このように、「はやぶさ2」で獲得した技術が地上のさまざまな分野で応用されることを期待しています。
イオンエンジンで巡航する「はやぶさ2」のイメージCG