──科学者たちには、面白いことをやろうという考え方が共通してあると。
久保田 ええ、みなさん限られたリソースの中で最大の成果を挙げることに力を注ぎ、あらゆることを考えていますね。最初は、探査機の搭載重量をどう分けるかで取り合いになります。各担当の主張が強いわけですが、それでは成り立たない。ある程度フェーズが進むと、お互い協力してダイエットを始めて、みんな過去のことは忘れるので(笑)、一気にチームワークが良くなりますね。
吉川 切磋琢磨に関して言えば、アメリカやヨーロッパとの関係についても同じことが言えるかもしれません。アメリカではオサイリス・レックス(小惑星ベンヌからのサンプルリターンミッション)が進行中ですし、ヨーロッパでは日本と協力してマルコ・ポーロ(小惑星ウイルソン・ハリントンからのサンプルリターンミッション)が検討されました。惑星探査は、それぞれの国、地域が独自にやりたいミッションをやるわけですが、当然競争もありますけれども協力もして、情報のやり取りは常にしています。アメリカが成功すれば、サンプルは2カ所から得られることになりますし、より研究が深まっていく。
オサイリス・レックスのチームは「はやぶさ2」を非常に羨ましがっているんですね。なぜかと言うと、彼らは観測をしてサンプルを採るだけなんです。「はやぶさ2」は、衝突装置はあるし、MINERVA-Ⅱを含めた合計4機の探査ロボットを降ろすし、タッチダウンも2回やっている。小さな探査機で、予算も少ないのに、彼らよりもはるかにたくさんのことをやっている。アメリカでは、「こんなにたくさんのミッションを提案できない」と言っていました。
久保田 アメリカもヨーロッパも「確実性」をかなり重要視していますよね。機会も予算も多いから、新しいチャレンジはできるだけ絞って,次の機会に採用するなどしています。でも日本では10年に1回できるかどうかです(笑)。だから、色々なものを詰め込みたいと知恵を絞るわけです。例えばMINERVA-Ⅱの重さは約1kgですが、ドイツとフランスが作った小型着陸機MASCOTは10kgほどです。チャレンジングなことは今後もできると思いますが、そのための準備をしっかりとするのがすごく重要。無謀なミッションは、当然JAXAでも認められない。リソースが限られると、いろんな発想が出てきますね。
「はやぶさ2」に搭載した小型着陸機MASCOTのイメージCG
昨今、若い人は夢がないと言われていますが、失敗を恐れて挑戦しないのはもったいないと思います。「はやぶさ2」を通して、夢の実現、挑戦する姿、特に若い研究者の姿を見てもらいたかった。悩む姿も中継でご覧になったと思います。難しい問題にどう立ち向かうか、あらかじめ用意周到に準備をして挑戦する大切さをご理解いただけたかと思います。それでも失敗したら,そこから学ぶことは大きいと思います。「はやぶさ2」は、中小企業、町工場の人たち、今まで宇宙に関わってこなかった人たちも巻き込んだ、日本らしいプロジェクトであると思います。
カプセルの到着を出迎える相模原市の皆様
●Profile
宇宙科学研究所
宇宙機応用工学研究系准教授
吉川真 YOSHIKAWA Makoto
栃木県出身。専門は天体力学で、小惑星の軌道計算や探査、プラネタリー・ディフェンスなど、長年小惑星に携わる。登山が好きだが、最近はあまり山には行けず、自己流でフルートや尺八の練習中。
宇宙科学研究所
宇宙機応用工学研究系教授
久保田孝 KUBOTA Takashi
埼玉県出身。M-Vロケットの姿勢制御や「はやぶさ」の航法誘導とミネルバを担当。未知環境を探査する賢いロボットの研究をしながら、現在チーフエンジニアとしてJAXAのプロジェクトの評価・推進を行なっている。ワイナリー巡りが好きで,最近は,観劇や落語なども楽しむ。
JAXA’s N0.83より転載。
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