4)プライバシー
AIやデータを取り扱う側の倫理観も問われます。昨今はデータプライバシーに関する法整備も進んでいます。ターゲティング広告は個人のオンライン上の行動履歴などにもとづき、カスタマイズされた広告を配信する仕組みですが、欧州ではここで用いられる個人プロファイル情報に関し、プライバシー上の懸念があることが指摘されていました。そのためクッキー(ユーザーがウェブサイトを閲覧した際にそのユーザーのPCやスマートフォンの中に保存される履歴や入力情報)をはじめとする行動トラッキング技術への規制の動きが広がっています。こうした流れを受けて、Googleは2020年1月にウェブブラウザChromeで、ウェブサイトにバナー広告を配信している広告配信事業者から発行されるクッキー(サードパーティクッキー)のサポートを段階的に廃止する計画を発表しました。
個人の行動に基づいて属性を推定するAIは、ユーザーの利便性や顧客体験の改善において重要な技術となっていますが、データの取得やその取り扱いにおいてプライバシーへの配慮は必須となっています。
5)仕事の崩壊
AIは人間の判断の代替となり、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やロボットと組み合わせることで業務も自動化することができます。しかし一連の業務フローの中にどのような作業が存在し、各作業がどのように流れていくのか、またどのようなデータを入力してAIをどこに導入するのかを判断するのは人間の仕事です。人間との協業を考慮しながらAIを設計し、AI適用後の実情に合わせて前提を見直す。そしてそのサイクルの中でAIを最大限活用し、業務のあるべき姿と働き方をアップデートしていくことが重要になるのです。AI任せにして業務が崩壊しないよう、人とAIがお互い得意な領域を見極めた上で協働し、シナジー効果を得るための具体策が必要です。
6)シンギュラリティ
AIにおける最大の誤解がシンギュラリティ(技術的特異点)にまつわるものです。いつの日か、人類よりインテリジェンスな機械が創造され、人類のコントロールを離れて進化、あるいは暴走するのではないかと恐れる人がいますが、これには誤解が多分に含まれています。音声認識AIや画像認識AIはもはや人間の能力を超えています。また人間が一度に処理しきれない大量のデータを使って人間よりも正確な判断や予測ができるAIもあります。囲碁ソフトウェアのAlphaGo Zero(アルファ・ゴ・ゼロ)は、人間の対局データを学習データとして与えることなく、ルールを教えたあとは自分自身との対局により学習を進め、それまでのどのバージョンよりも強い状態に到達しました。前バージョンのAlphaGoが人間のプロを破るまでに数カ月の学習期間が必要だったのに対し、たった数日で同じレベルの強さに達したとされています。
しかしこれらはすべて、非常に限定的な範囲においての成果であり、不必要に恐れる必要はありません。AIを設計するのは人間であり、その出力結果を判断するのも人間です。どのような形のAIであれそれらを進化、発展させていくためには、その中心に人間が存在するという人間中心のデザインが必須となります。AIを中心にして人間が存在するわけではないのです。
新リスクへの備えと、迅速な展開を実現する「5つの原則」
これらのリスク対策として、AIの「管理」「設計」「監視」「再教育」を行うことが必要です。では、AIを取り扱うにあたり、人にはどのような考え方が必要なのでしょうか。アクセンチュアではAIとの協業に成功している企業は、「MELDS」の5つの原則を採用していると考えています。(下の5原則参照)
MELDSは組織のマインドセット、実験(エクスペリメント)、リーダーシップ、データ、スキルで、AI時代における勝者はこの5つの重要な原則を採用し成功を収めています。