米国では、この疑問に対する答えとも言える状況が、サンフランシスコなどの一部の都市で急速に進行中だ。家賃がとてつもなく高いサンフランシスコのベイエリアに住んでいた人たちの多くが、荷物をまとめ、都市からさほど遠くなく(およそ300km)、より住み心地のよい地域へと移り住んでいるのだ。そうした地域のひとつであるタホ湖周辺は、そうした人々の流入で一気に高級化し、不動産価格が急騰。地元の不動産仲介業者がひと儲けしている。
これが、筆者が以前記事で述べた「ズームタウン(Zoom town)化」だ。ズームタウン化した地域では、主としてテクノロジー系企業である勤め先から、在宅勤務がメインで、ときおり出勤するという働き方を提案された従業員たちが暮らしている。
新型コロナウイルスの感染が落ち着くにつれ、これまでになかったようなかたちで仕事と付き合う新しい労働者カテゴリーが生まれつつある。従業員と雇用主は突如、どこであろうと生産性を落とさずに働くことができるし、効率の悪い通勤と定時勤務を不要にできると悟ったのだ。とはいえもちろん、すべての職業が、最適な働き方を模索する際に多くの選択肢があるこのようなカテゴリーに当てはまるわけではない。
スペイン・カナリア諸島の自治体は、場所を選ばず自分に適したところで働ける労働者3万人を対象に、島への移住を呼びかけるキャンペーンを実施している。目的は、パンデミック中に観光客が激減し、莫大な損害を被った経済を立て直すことだ。カナリア諸島はこれまで、過剰なまでに観光業に依存してきた。全売り上げの35%、雇用の40%が観光業に起因していたのだ。カナリア諸島が移住者を呼び込もうと掲げている価値提案は、理想的な気候、ゆったりとしたスペース、良好かつ低価格なネット接続、手ごろな生活費、最新の医療サービスと、この上なく明快だ。
こうした呼びかけに応じてカナリア諸島に移住した労働者は、8000人ほどに上っている。パンデミックが終息へと向かうにつれ、こういった類いの、労働者を呼び込もうとする国や政府の働きかけは増えていくのだろうか。新型コロナウイルスは、場所を選ばない働き方ができる、新たな労働者階級を作り出したのだろうか。