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2021.05.04 12:00

ミスチルを育てた男の「終わりなき旅」小林武史の理想郷づくり20年


小林は、まず03年に、Mr.Childrenの櫻井和寿と前述の音楽家・坂本龍一との共同出資で、非営利団体「ap bank」を設立し、環境プロジェクトへの融資事業を始めた。

その後も小林の心を揺さぶるような歴史的な変動が続いた。08年のリーマンショックに端を発する世界経済危機、11年には東日本大震災による原発災害。それらから小林は目をそらすことができず、さらなるアクションへと駆りたてた。

「9.11で明らかになったように、エネルギーの争奪が戦争やテロにつながっていった。それを巧みに利用して経済に結びつけ、大量生産、大量消費が行われてきた。しかも先を考えずにどんどん消費し、廃棄する。環境や未来への負荷を考えれば、成長に依存するだけの生き方は危険。お金偏重の暮らしが本当の豊かさに寄り添っているとは思えない」

小林は05年に立ちあげたKURKKU(クルック)の事業のひとつとしてレストラン事業を展開。農業生産者と消費者を食で結ぼうと考え、都内での店舗運営に続き、木更津で有機農業への取り組みを開始する。これらが小林のコアプロジェクトとして、現在のクルックフィールズという本格的な農場経営モデルに収斂しているのだ。


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土地を拓き始めてから今日まで10年かけて土壌を改良し、有機野菜を育んできた。来年度より、晴天時に施設内で使用する電力はすべて太陽光発電で賄う予定だ。また、上下水道は引かずに井戸水をくみあげている。下水は地下のバクテリアによる水質浄化システムで濾過し、農園中央の池にいったん貯める。水はそこから園内の小川に流され、自然の動植物が繁殖するビオトープとなる。

開業1年を経たクルックフィールズの経営状況は、このコロナ禍でアップダウンはあるものの「損益分岐点を狙えている程度」(小林)ではあるという。

これだけの規模の施設を建設するには相応の資金を要するはずだが、その原資について小林は「90年代に空前の音楽バブル期を迎えるなかで成功できたことが、その後の僕の活動を支えることになった」と認める。

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昨年、宮本浩次のカバーアルバム『ROMANCE』のプロデュースを手がけた。時代や性別などの分断を超えて人々の心に響く作品づくりは、小林が「これこそ自分がずっとやりたかったこと」だという
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文=武田頼政 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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