そして、過疎化がこの問題をさらに悪化させています。何十年にもわたり、東京や大阪など大都市への人口流出が続いた結果、地方の人口減少と高齢化が加速。地方における公共交通機関のサービスのニーズが最も高まっている時に、公共交通事業者の収入が減少する事態を招きました。世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの調査によると、日本の地方ではバス事業者の85%が赤字状態であることが明らかになっています。
過疎化は中国と日本を筆頭にG20諸国でも進行している。(イメージ: C4IR)
地方の公共交通の「MaaS」化
この「モビリティ格差」の解消を目指し、さまざまな新しい取り組みが行われています。その多くは「MaaS(サービスとしての移動)」の概念をベースとしています。MaaSとは、ユーザーがスマートフォンのアプリなどを通じて、異なる交通手段の検索・予約・決済を一括してシームレスに行えるようにする、デジタル技術を活用したアプローチです。
世界各地でMaaSの導入が進んでいますが、ユーザーはデジタルツールの利用に慣れている都市部の比較的若い層が多い傾向にあります。その意味では、日本の地方における取り組みは、MaaSのコンセプトを新たな境地に導いていると言えるでしょう。ここで得られる教訓やベストプラクティスは、他の国々が地方のモビリティ問題に対処する際の指針となり得ます。
日本におけるMaaS事業(イメージ: C4IR)
日本では現在、全国80以上のMaaS事業がスタートしており、その多くが地方で展開されています。MaaSセクターは、政府が「未来投資戦略」において、MaaSの実現に向けたインフラ整備プログラムに焦点を当てた2018年以降、急速に拡大しています。世界経済フォーラム第四次産業革命センターの調査「MaaSによる地方モビリティの変革(Transforming Rural Mobility with MaaS)」では、地方においてMaaSの導入に成功している事業者及び成功しているプロジェクトの要素を特定しました。
・協働的アプローチ:既存の公共交通事業者と緊密に協働している
・革新的なビジネスモデル:新しいテクノロジーの活用のみならず新たなビジネスモデルの開発に尽力している
・利用者の視点に立った柔軟なサービス:ユーザーのニーズに対処し、スピーディーにサービスを適応させている
・幅広い課題への注力:観光振興や健康・福祉の増進など、社会・経済分野の目標の達成を後押ししている。
広島県の山間部に位置する過疎の町、庄原市では、MaaSを活用した施策を導入し、縮小傾向にある路線バス問題に対応しています。高齢者がバスに乗るまでに歩く距離を短縮するためにバス停を増設。また、事業面・運用面でより持続可能性を高めるため、小型車両と利用者が事前に予約したバス停にだけ車両が停車する予約システムを導入しました。