それって「リスペクト」足りなくない?
このリスペクト・トレーニングは、世界中のNetflix作品の撮影現場で行われている。Me Too運動の高まりをきっかけに取り組みが加速した。日本でも、「全裸監督」(2019年)以降撮影が開始したオリジナル作品では必ず行われるようになったのだが、それにより現場にはどんな変化があったのだろうか。
この業界で30年のキャリアを持つNetflixプロダクション・マネジメント部門の小沢禎二さんは、こう語る。
「現場で働くある女性スタッフからもらったフィードバックが印象的でした。彼女たちは、それまではまるで奴隷のような気持ちで働いていたと言ったんです。それが、リスペクト・トレーニングが導入されたことで、私たちは守られているんだと強く感じることができるようになったと。何人もからこういった感想をもらいました。それを聞いて、我々がやっていることは、業界全体に対して大きなインパクトを与えているんだと感じています」
さらに、ある現場では、男性スタッフが部下の女性スタッフをみんなの前で身体的にからかったことがあったという。すると、それを見ていた他のスタッフから「それってリスペクト足りないんじゃない?」と穏やかな指摘が入ったそうだ。それに対して、本人も「ごめん」とその場で素直に謝ったという。
「現場の空気が悪くなることなく、和やかに問題が解決されたのを見て、素晴らしいなと思いました。こういう場面が増えれば、現場に笑顔が広がっていくのではないでしょうか」
Netflixと一緒にトレーニングプログラムをつくるにあたって、講師の田中さんは次の2点に特に気をつけているという。1つは、専門用語はなるべく使わずに、高校生でもわかるような平易な言葉で説明すること。もう1つが、答えを出すのではなく、話し合うことを大切にするという姿勢だ。
「現場の方たちは、『これはOKか、NGか』と、どうしても白黒つけたがる傾向がありますが、それは我々の目指すところではない。もちろん、トレーニングを受けた次の日から、すぐにみんなができるようになるわけではないですが、これを繰り返し続けることによって、5年先、10年先の現場が、もっと豊かになっていくのではないかと思うんです」
制作現場の労働環境を改善する取り組み
Netflixが取り組んでいるのは、このリスペクト・トレーニングだけにとどまらない。大相撲の世界を描いた「サンクチュアリ -聖域-」の現場には、肌を露出するシーンなどの撮影にあたって、演者側と演出の間をとりもつ専門家、インティマシー・コーディネーターも参加している。
藤田プロデューサーによれば、インティマシー・コーディネーターは「アクション・コーディネーターのようなもの」と理解するとわかりやすいという。