「迫力あるいいシーンを撮りたいという監督の意図を汲みながら、演者の安全を守るのがアクション・コーディネーターの仕事。インティマシー・コーディネーターも、演者の尊厳を守りながら肌を露出する場面や相手役と濃厚に接触するベッドシーンなどの撮影にあたって、演出側との間に入って調整してくれる専門家です。
「サンクチュアリ -聖域-」は相撲の話なので、まわしをつけているとはいえ、おしりが見えている状態だったり、裸にならなきゃいけなかったりする場面もある。いまはどういう風に撮りたいかという演出プランを監督から吸い上げて、1シーンずつ確認していく作業をしています。
それまで、こうした調整や演者との交渉をするのは僕らプロデューサーの仕事でした。それを任せられるプロがいるというのはリスクヘッジになるし、安心だなと感じますね。ただ、だからといって全てを任せきりにするというわけではなく、そこもやはりコミュニケーションが大事になってくると思っています」
そもそも、撮影現場はなぜピリピリしがちなのか。藤田さんはその理由を次のように話す。
「撮影スケジュールに無理があることが、大きな理由の1つだと思うんです。時間の余裕がなくなると、リスペクトも難しくなってしまって、僕らも腕を組んで現場に立ち始めることになる(笑)」
ところがNetflixの現場では、1週間のうち1日は撮影休止日をつくるのが基本ルールだという。また、1日の撮影時間も12時間までと決められており、撮影終了から次の撮影開始までは10時間開けなければいけない。
「僕自身、先輩に蹴られたことも、3日連続で徹夜したこともありました。しかし、それをよしとして続けていては、制作現場に若い人材が集まってこなくなってしまう。僕らが経験してきたオールドスタイルの人情などの良い部分は記憶しつつも、業界全体の意識を底上げして、時代にアジャストしていかなくてはならないと思う。現場ではコミュニケーションとトライを続けていくことが大事だと考えています」
講師の田中さんは、リスペクト・トレーニングやインティマシー・コーディネーターなどの取り組みは、「クリエイティビティの発露にもなりうる」とも指摘していた。こうした労働環境の改善への取り組みが、ハラスメントの防止になることはもちろん、現場にリスペクトが溢れることで、若手や後輩が意見を言いやすくなったり、アイデアが出てきやすくなったりするからだ。
こうした現場における地道な環境づくりが、チームの士気を高め、Netflix作品のクオリティを継続的に支える1つの大きな力になっているようだ。