起業家がスターシェフに聞く、東京と仕事とレストランビジネス

ダニエル・カルバート(左)と岩瀬大輔(右)


──ダニエルの話で印象的だったのが、几帳面だったというお父さんの話。その性格や教育は今に影響していますか?

父は海軍や警察でテロ対策の仕事をしていた人で、何かをするときはすべて“正確”を求められました。その正確というのは父にとっての正確で、完璧とは違って、できうる限りの注意を払っているかどうか。例えばサンドイッチをつくるにしても、マヨネーズやバターをどの面に塗るかが決まっていて、ルービックキューブのように組み立てていました。

僕のプライベートは多忙なこともあって、あまりきっちりとはできないけれど、仕事に関しては100%影響してますね。父は半端なことは許さなかったのですが、それは僕も同じ。それで今の僕があるので、感謝しています。

──子どもの頃の話でいうと、英国人シェフのジェイミー・オリヴァーにインスパイアされたと聞きました。彼はどんな存在ですか? 

僕らの世代は、彼から“料理人”という仕事を知ったと思います。彼はよくテレビに出て“カジュアルな料理”をつくっていて、料理を身近なものにしてくれた。それに、“料理する男性”という象徴でもあった。男性も料理をしていいんだって思わせてくれたんです。

当時、料理といえば家庭における母親の仕事というイメージで。僕がシェフになりたいと話したとき、僕の両親は「男子がそんな……」という感じではなかったですが、言い出すのはためらいました。その頃、レストランと聞いて両親が思い浮かべるのはクリスマスや誕生日に行く近所の店ぐらいだったので。



──そうして13歳でシェフになると決め、16歳から料理の世界にいるわけですが、ダニエルにとって料理はどんな存在ですか?

人生、何かを追求して生きられたらとても素晴らしいことで。朝起きてから一日中好きなことをするような人生。幸運なことに、僕はそれが仕事になっています。16歳で料理を始めてからずっと、今でも「仕事に行かなきゃ」と強制感を感じることはないですね。

──とはいえ、誰もが星を獲れるわけではないし、獲ったゆえの大変さもある。星とは無縁でやっていくという選択肢もあり得るはず。そんななかで、今のようにダニエルを動かすモチベーションは?

性格によるものも大きいと思います。さっき話した通り、僕は父の影響もあって、きちんとやりたいタイプ。それを重ねていくことで星に行き着いたとも言えます。それと、僕には人生において達成したいことのリストがある。良い仕事をして、クリエイティブな環境をつくり、学び続けて、より良い料理人になる。それが、毎朝僕を動かす原動力です。

──ロンドンでは、18歳の若さで2つ星店働いていました。あまり外食もできなかったと思いますが、どうやって2つ星の洗練を身につけたのでしょう?

その頃は星の数の違いはよくわかっていなかった。3つ星はゴードン・ラムゼイの店だけしたが、怖くてとても行けなかったですね(笑)。2つ星店でシェフに聞いて、学んで、味見して……1年に4シーズン、各4皿以上、3年で計12シーズンを経て、包括できたと思います。
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編集=鈴木奈央 写真=小田駿一

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