培養ステーキ肉も昆虫肉もここまで来た。肉は試験管から「収穫」する未来?

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培養昆虫肉が効率的?


ここまで紹介してきた培養肉は、前提として動物細胞を原材料にしている。動物細胞から肉を培養するには、動物の体内環境を研究所で再現し、細胞を育てる必要がある。理屈はシンプルだが、細胞の成長に必要な栄養分を確保することは簡単ではない。

米タフツ大学の研究チームによると、動物細胞から肉を培養するよりも、昆虫の細胞を原料にする方が効率的に培養できるという。昆虫のような無脊椎動物の細胞は非常に頑丈で、脊椎動物である動物細胞を管理するよりも低いコストで培養が可能となるのだ。

ただし培養肉を購入する消費者が、原材料に昆虫が使われた肉と知って購入したいと思えるかは別の話であるため、普及させるのに時間がかかりそうだ。未来は分からないが、いつの日か、昆虫の細胞から培養された代替肉が市場に出回っているかもしれない。


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未来の培養肉の可能性


培養肉の研究が進められている背景については、本記事で大方理解していただけたことだろう。しかし、実際に純粋な食肉と培養肉が並べられたら、多くの人々が純粋な食肉を選ぶのではないだろうか。培養肉という言葉に馴染みが薄いからこそ、抵抗感があるのは仕方ないことだろう。

そこで、先に紹介した竹内教授の研究所では、社会科学分野の専門家とともに、培養肉の受容性に関する国内調査を実施した。日本に住む20歳から60歳の男女2000名を対象に、培養肉を食べてみたいかと聞いたところ「食べてみたい」と答えた人の割合は3割弱だったが、本記事でメリットとして提示した「人口増加・食肉需要の増加」や「倫理観(犠牲となる家畜の数を減らす)」への改善となる実情を示すと「食べてみたい」と答えた人の割合は5割にまで増加したというデータがある。一口に「培養肉」と謳われると抵抗感があるが、培養肉が注目されている背景を知ることで、多くの消費者の受容性が高まるようだ。

これは日本国内でのデータであるため、海外で同様の結果が得られるかは分からない。国によって食文化も異なれば、価値観も異なるため、一概に言い切ることはできないのだ。また、現在は培養肉を「食べたい」と答えられなくても、メリットを理解したうえで未来の食材としての期待を持つ人もいることだろう。今後、研究が進むことで、より食肉に近い培養肉が作製されたら……、人々の多くが家畜飼育による問題を実感したら……。培養肉の普及は、時間の問題と言えるかもしれない。

文=アステル 編集=石井節子

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