彼の新刊『Ten Lessons for a Post-Pandemic World』は22カ国語に翻訳され、国内外でベストセラーに。今年初めに出版された邦訳版『パンデミック後の世界 10の教訓』(日本経済新聞出版)もアマゾンでベストセラーとなった。「過去1世紀で、戦争よりも多くの人命を奪ってきたのはパンデミックだ」と語るザカリアは昨年3月、感染拡大の早期段階で事の深刻さを認識。パンデミックが政治やグローバル化、格差などに及ぼす長期的影響を深掘りすべく、同書の執筆に取り掛かった。
コロナ対策に成功した国・地域の共通点は? 多くの人が感染し、命を落とす中、米国はコロナ禍や政治・社会の分断を乗り越え、復活できるのか。私たちはパンデミックから何を学び、未来に生かすべきなのか──。ザカリアに話を聞いた。
──『パンデミック後の世界 10の教訓』は、世界中に大きな影響を与えています。あなたを執筆へと駆り立てたものは何ですか。
パンデミックが、これまで経験したことがない真に歴史的でグローバルな出来事だと考えたからだ。
昨春以降、出張や会議で多忙だった私の生活は一変した。自由時間を使い、いったい何が起こっているのかと考え続けた結果、これは私の人生で最も重要な出来事だと悟った。毎朝6時半~11時まで、新聞もテレビもツイッターも見ずに、パンデミックの長期的影響を書き出したところ1~2週間で10項目になった。
そして、それを本にすべきだと考え、4カ月半、朝のニュースに目もくれず、パンデミック後の世界を見通すべく執筆に専念した。
反響が大きかったのは、これが真にグローバルな出来事であり、その意味や今後の見通しについて知りたい人が多いからだろう。出勤や外出が減り、読書の時間が増えたことも影響していそうだ。
──あなたは同書の「Lesson 2」で、台湾やギリシャ、ドイツなどのコロナ対策を成功例として挙げています。そうした国・地域に共通するものは?
まず、最良のパンデミック対策を行ったのは、台湾を筆頭に、韓国や日本、シンガポールなど、東アジアである点を指摘したい。
こうした国・地域に共通するのは、行政システムが機能的で優れており、官僚が独立性や権威、独自の見解、誇りをもっていること。なかでも特筆すべきは、行政機関がさほど腐敗していないことだ。市民との間に信頼が築かれているため、彼らが指示に従うのだ。過去から教訓を学ぶ姿勢も強みになっている。
台湾は重症急性呼吸器症候群(SARS)対策の失敗から学び、今回は早期かつ積極的に賢く危機に対応し、成功した。過ちから学ぶ謙虚さが重要だ。
──日本では、優れた行政機関や官僚制度にもかかわらず、新政権の政治的意思決定が遅れ、感染が拡大し、菅首相の支持率も急降下しました。
2つの問題が絡み合っている。1つは行政国家と官僚制度の質。もう1つは首相や大統領の指導力だ。日本の行政国家と官僚制度の質が高いのは言うまでもないが、首相の判断ミスが続けば、優れた官僚制度も役に立たない。首相がボスだからだ。従って、(支持率低下という形で)国民が首相を非難したのは正しい。スウェーデンはロックダウン(都市封鎖)をしなかったため、感染が広がり、多くの死者が出た。問題は官僚制度ではなく、政治的決定だ。