これは東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が示した見解だが、これまでの研究からは、森会長がどちらの点でも間違っていることが示されている。女性はおしゃべり好きだというステレオタイプとは裏腹に、実際には男性の方が競争意識が高く、発言も多い傾向にある。
問題の発言は3日、女性理事を40%以上にするという日本オリンピック委員会(JOC)の目標に関して質問を受けた際に出たもので、その場にはJOCのメンバーと記者らが同席していた。
森会長は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。(中略)女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困る」と発言。さらに、「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げていうと、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」と説明した。
JOCの理事25人のうち、女性は現在5人。森会長は翌4日、この発言を撤回し、謝罪した。
森会長は驚くかもしれないが、この主張を裏付ける証拠はほとんどない。デボラ・ジェームズとジャニス・ドレーキッチの研究者2人は、男女の話す量を比較した56件の先行研究を分析。結果、女性が男性より話す量が多いと結論づけた研究はわずか2件で、逆に男性の方が発言が多いことを示した研究は34件あった。
実は、ある人の発言が多いかどうかは、その人の性別よりも地位に関係していた。研究チームは、発言が多い人は高い地位に就いていることが多いと結論している。仕事の場面では、地位が高い人物は男性の方が多い。男性が大多数のJOCの会議ではおそらく、男性の方が高い地位にあり、話す量も多いだろう。
女性はおしゃべり好きだというステレオタイプは世間一般に広まっており、そう考えているのは森会長だけではないはずだ。例えば、教室では女の子よりも男の子の方が発言の量が多いことが分かっているが、どちらの発言が多いかを尋ねられた教師は、女子の方が多いと回答。教師らも森会長と同じ、誤った認識を持っていることが分かった。実際には、教師から発言の機会を与えられることが多かったのは男子の方だった。
さらには、女性が発言をすると、主張が強すぎるとして反発を生むこともある。学術誌アドミニストレーティブ・サイエンス・クオータリーに掲載された2011年の論文によると、頻繁に発言する役員が男性だった場合は能力が高いとみなされる一方、女性の場合は能力が低いとみなされる傾向があった。