ボブ・ディランと言えば、「風に吹かれて」や「時代は変る」、「ライク・ア・ローリングストーン」など、自らが作詞作曲した楽曲で、デビュー時から1960年代中盤まで、プロテストソングの旗手としてもてはやされた。
特に「風に吹かれて」は、公民権運動のアンセムとして人々に愛唱され、同業のミュージャンからもリスペクトされていた。しかし、ディラン本人はのちに、そういうことには辟易していると語り、距離を置いていたが、彼が1960年代という時代を象徴するアイコンであったことは確かだ。
その後も活動を続け、グラミー賞やアカデミー賞をはじめ、ピューリッツァー賞まで受賞しており、2012年には大統領自由勲章まで受けている。この5月で80歳となるディランだが、いまも現役で、コロナ禍により中止となったが、昨年の4月には来日公演(4会場15公演)も予定していた。
37%の税率より20%の税率を選ぶ?
そのボブ・ディランが、大統領選挙でドナルド・トランプが敗れ、ジョー・バイデンが新大統領に就任することが色濃くなってきた昨年の12月7日、自分が著作権を持っている全ての楽曲を音楽ライセンス会社に売り払ったのだ。
正確な数字は明らかにされていないが、売却価格は300億円から500億円の間とされている。彼の音楽を愛するファンとしてはいささか落胆する出来事だったが、この動きを捉え、ビジネス・ディシジョンとしては秀逸だという声が高い。
実は、同じアーティストのなかでも、自ら作詞作曲して歌うシンガーソングライターには、とても優遇されているタックスシェルター(租税優遇措置)がある。なので、現状ならシンガーソングライターが楽曲の著作権を売れば、それはキャピタルゲインにかかる20%の税率ですむ。これは、売り払わないで毎年著作権料を所得として受ける場合にかかってくる37%の個人所得税の税率(累進課税の最高税率部分)を考えると、とても恵まれている。
映画製作者や画家やビデオゲームデベロッパーなどの場合は、自分の作品を売ったりしてもキャピタルゲイン課税は適用されず、やはり最高税率ならば37%の所得税を払わなければならないので、このタックスシェルターはシンガーソングライターにはとても有利だ。
ボブ・ディランだけでなく、ロックバンドのフリートウッド・マックのメンバーでもあるスティーヴィー・ニックスも楽曲の8割を売り払って100億円を得たと報道されている。
さらに、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、バイデン大統領はこのシンガーソングライターへのタックスシェルターを廃止するのではないかとの観測があり、また前述の個人所得税の最高税率を39.6%にまで引き上げようと計画しているので、ディランたちが楽曲を売り払ったことは、富裕層の間でも賞賛されている。