バーティカルSaaS「フェーズ2」の動き
──DNXベンチャーズ・マネージングパートナー 倉林陽クラウド、SaaS領域は好調が続くだろう。コロナ禍で成長が鈍化した分野もあるが、成長自体は続いている。
上場企業の決算をみても、領域的にコロナの影響を受けたであろう、名刺管理ソフトのSansanも業績を伸ばしている。景気の波の影響を受けにくいバックオフィス系SaaSを展開するfreeeやマネーフォワードも、順調に成長している。多くの非上場企業も成長を続けており、引き続き、日本のスタートアップの成長を牽引していく存在であることは間違いない。
私のところに毎週のように、海外機関投資家、ヘッジファンド、大物個人投資家から、急成長している非上場SaaS企業についての問い合わせがきている。世界中の投資家の資金が、日本の良質なSaaSスタートアップのレイター(上場直前)ステージのファイナンスを狙っている。海外機関投資家やヘッジファンドが、日本のスタートアップに投資をする、もしくはVCにLP出資するということは、日本のSaaSに投資するVCが、金融商品として成立しているということ。
これまでにない流れであり、日本のスタートアップ、VCの歴史の中で、リマーカブルなことだと思う。国内外のVC、海外の洗練された投資家が数多く出てきて、日本のクラウド、SaaS企業に注目しているので、強い会社が、よりいい条件で、いい投資家から調達するという動きが続くだろう。
ホリゾンダル(特定の部門や機能に特化)、バーティカル(特定の業界に特化)というビジネスモデルの話では、バーティカルの「フェーズ2」という話が出始めている。建設業向け施工管理サービスのアンドパッド、調剤薬局向けシステムを手がけるカケハシ、人工知能を活用した教育システム開発のアタマプラスといった、各業界のSaaSで「面」をとった企業が、その基盤を生かしてどのようなビジネス展開をしていくか。SaaSに止まらない進化をどうデザインしていくかが面白いテーマだ。
米国での成功事例としては、飲食店向け販売管理サービスのToastがレストラン業界向けSaaSからFintechにつなげている例がある。海外では数年前から議論がされてきた割には成功事例が少ないが、その背景にはSaaS市場のTAM(実現可能な最大市場)が大きく、既存事業の延長線上でも成長し続けている点が挙げられる。
日本では、米国と比較すると市場が小さいため、「フェーズ2」で面白いイノベーションが作れると、世界的に面白い事例になるのではないか。
また、ホリゾンタルでは「SaaSマネジメント領域」が注目される。SaaSありきの世界が広がる中で、その管理や支援を行うサービスを指す。SaaS統制プラットフォームのイエソド、サブスク管理ソフト開発のアルプのような企業で、ホリゾンタルの一歩先は同分野だと思っている。