配信映画のオスカー候補続々 「あの夜、マイアミで」に注目

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物語の大半は、この4人の対話劇が中心となっている。原作は、2013年に発表された同名の舞台劇だが、映画では、導入部で4人が置かれているアフリカ系アメリカ人としての複雑な状況が鮮やかに描かれており、この夜の室内劇へと繋がっていく。
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特にアメリカンフットボールの英雄、ジム・ブラウンが故郷のジョージア州に帰郷した際に味わう苛烈な体験は、この導入部を際立たせるショッキングなエピソードとなっている。

脚本は、原作者でもあるケンプ・パワーズが担当。限られた場所で、しかも主要登場人物は4人という舞台劇を、導入部のようなきめ細やかなエピソードや彼らの回想シーンなどを配することで、見事に映像作品へと移し替えている。

テレビドラマでの演出経験があるとはいえ、映画はこの作品が初という監督のレジーナ・キングも、そのことを微塵も感じさせない、4人の構図の巧みな切り替えなどで、動きの少ない対話劇を変化ある退屈させることのない作品に仕上げている。彼女がアカデミー賞監督賞のノミネートにも名前が挙がっているのも宜なるかなだ。
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浮き彫りにされる1964年の現実


音楽も、この作品の重要なアクセントとなっている。歌手であるサム・クックの曲はもちろんのこと、劇中でクック役を演じるレスリー・オドム・Jr.のオリジナル曲「Speak Now」は、この作品を心に残る印象深いものにしている。この曲は、アカデミー賞歌曲賞の候補にも取り沙汰されている。

また、経済的にも豊かなアフリカ系アメリカ人であるサム・クックとマルコムXが激しく議論を闘わすシーンでは、ビートルズやローリング・ストーンズなどの名前も登場し、最後はクックへの「プレゼント」だとマルコムが言いながら、ボブ・ディランの「風に吹かれて」のレコードがターンテーブルに載せられる。

現在のBLM(ブラック・ライブズ・マター)の源流とも言える、アメリカの1960年代の公民権運動のアンセムでもある「風に吹かれて」が流れ、彼ら4人が置かれた1964年の現実も浮き彫りにされていく。

1964年は、公民権運動の盛り上がりによって7月に公民権法が制定され、長年アメリカで続いてきた「法の上での人種差別」が終わりを告げた年だ。とはいえ、同じアフリカ系アメリカ人であっても、そして友人どうしであっても、肌の濃淡や白人との距離の取り方などによって、4人の立ち位置の違いも次第に明らかになっていく。

意外だったのは、いちばん年少のためか、その夜の主役でもあった世界チャンピオンのアリが、4人が集まったなかでは最も寡黙だったことだ。とはいえ、意図的な演出なのかもしれないが、物語の終盤、報道陣の前に出たアリは、4人のときとはうって変わったように力強く吠える。このシーンも強く印象に残る。

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文=稲垣伸寿

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