マルコムXの宿泊先での4人の集いは、当時すでに身辺に危険が迫っていたマルコムの警護に守られてのものだったが、このシチュエーションとその場で語られる議論は、そっくりこの時代のアフリカ系アメリカ人が置かれた状況を表すものであり、見事に「物語」としても結実されている。
英語版の予告編では「4 LEGENDS」という惹句とともに、「INSPIRED BY TRUE EVENTS」(実際の出来事に触発された)というテロップも流される。そのため、この4人がこの夜に会ったことは「事実」かもしれないが、そこで話された内容は、原作の劇作者でもあり、脚本も担当したケンプ・パワーズの創作であることは想像に難くない。それだけに、作品には彼なりのメッセージ、また監督のレジーナ・キングなりの思いが込められている。
ちなみに、この夜、マイアミに集った4人のレジェンドの年齢は、マルコムXが38歳、サム・クックが33歳、ジム・ブラウンが28歳、モハメド・アリが前述のようにいちばん若く22歳だった。
クックは、この年の12月、行きずりの女性と入ったロサンゼルスのモーテルで、管理人と揉み合いとなり、銃で打たれて死亡。銃撃は正当防衛とされたが、疑問が残る死だったとも言われている。
マルコムは、翌年の2月、ニューヨークで聴衆を前に演説していたところを、彼が脱退したばかりの教団の信者により、これも銃撃されて死亡している。つまり1年でレジェンドのうち2人がこの世を去っているのだ。まさにマイアミの一夜は奇跡の夜だったのだ。
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アリは、1981年に生涯5度目の敗戦を喫し、プロボクサーを引退。引退から3年後の42歳のとき、現役時代に受けた頭部へのダメージが原因とされるパーキンソン病を発症し、その後は長い闘病生活に入り、2016年6月、敗血症により74歳で死を迎えた。
ブラウンは、「マイアミの一夜」の年に映画俳優としてデビュー。アメリカンフットボールから引退した後も、「特攻大作戦」(ロバート・T・ジェファーソン監督、1967年)や「エニイ・ギブン・サンデー」(オリバー・ストーン監督、1999年)などに出演して、俳優として活躍。現在も4人のレジェンドのただ1人の生き残りとして、まもなく85歳を迎える。
「あの夜、マイアミで」は、すでにアカデミー賞の前哨戦の1つとも言われているトロント映画祭では、これもノミネートが有力と目されている「ノマドランド」(クロエ・ジャオ監督、フランシス・マクドーマンド主演)に次ぐ高い評価を得ており(観客賞第2位)、作品賞のみならず、監督賞や脚色賞でもノミネートが有力視されている。
アマゾン・スタジオとしては、「あの夜、マイアミで」の他にも、「サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜」(ダリウス・マーダー監督)、「続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画」(ジェイソン・ウォリナー監督)のノミネートも期待されており、今年のアカデミー賞は、ネットフリックス作品ととともに配信勢の快進撃が止まりそうにもない。
連載:シネマ未来鏡
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