だが、ここからが想定外の連続だった。そもそも、教育を受ける機会がなかった人たちだ。「布を5cmに切って」と伝えても、モノを測るという感覚が伝わらない。それでも、トレーニングの段階から収入が得られるようにしたい。そこで思いついたのが、無地のTシャツに民族衣装の布で作ったポケットを縫い付けた「AFRICAN PRINT T-SHIRTS」だった。これならオリジナリティがあるし、布を切る練習で生まれた端切れを商品に使うことができる。
「とはいえ、最初のころは100枚つくって90枚がダメでしたけどね」
CLOUDYの原点とも言えるAFRICAN PRINT T-SHIRTSのポケットは、リベリア内戦の難民が暮らす難民キャンプ内の工場でつくられる。一点一点が、手動ミシンを使った手作業。
そう苦笑いする銅冶だが、粘り強く実践を重ね、TシャツはいつしかCLOUDYの看板商品の一つになった。白いカードを文字の形にくりぬき、後ろから端切れを貼った斬新なカードもよく売れた。昨年からは現地調達したアフリカンファブリックのほかに、ガーナ人デザイナーによるオリジナルデザインの生地を商品に取り入れている。
「大切なのは、現地の人たちのスキルを考慮したうえで、売れる商品のアイデアを考え抜くことです。売って、数字をつくって、雇用を増やすことが僕たちの本質的な目標なので」
本質。それは銅冶が最も大切にしている言葉の一つだ。
ここ数年、SDGs(持続可能な開発目標)やサステナブル、エシカルといった言葉が頻繁に取り沙汰されているが、銅冶は「日本では、言葉ばかりが一人歩きしている」と指摘する。
「多くの企業や組織が、ビジネスを通して途上国支援をしていることを前面に掲げています。でも、その活動が本当に必要なのか、持続性があるのか、フェアなのか。深く掘り下げてみると、本質をとらえた活動ができている例はとても少ないのが現状です。僕たちは常に本質を追究したい」
銅冶の挑戦は社会課題の解決法に対する問いかけであり、エシカル消費やフェアトレードのあり方を含めた旧来型の価値観へのアンチテーゼなのだ。
消費文化への挑戦を続ける銅冶は「商品をつくる過程で生まれたB品(不良品)のブランドをつくりたい」と構想を語る。
どうや・ゆうと◎DOYA代表取締役社長。2008年慶應義塾大学経済学部を卒業。ゴールドマン・サックス証券に入社し、2010年にNPO法人Dooooooooを設立。2015年にDOYAを設立。